第五章

一話【あれから八年…】

「ギルド長! ジビカガイライの方々が戻りました!」


ギルド職員の声に、長い白髪混じりの髪をかき揚げ、机に立て掛けてあった日本刀を手に立ち上がる年配の女性。


二階からでも騒がし声が聞こえて来る。


シワが目立つ50代位の女性が、黒く長いスカートから金属に覆われた物々しいブーツを見せながら、颯爽と階段を降りる。


「騒がしい、静まれ!」


階段の踊り場で日本刀の先端を床に叩きつけ叫ぶと、一気に静まり返るギルド内。


ツノを生やす大きな体の女性に、群がる冒険者達が距離を置く。


「久しいな弁慶!」


「ああ、ツナマヨも元気そうだ」


筋肉に覆われた巨体が腰に手を置き、大きな胸を揺らす。


「勇者はどうした?」


「ああ、真っ直ぐ家に帰ったよ」


「あれから8年も経つのに、まだ忘れられぬか」


遅れて中に入って来る、真っ白の毛をなびかせる巨大な犬。


その後ろから両手で杖を前に持つ、モデルの様な体型の白髪の美女。


冒険者達が息を呑む。


「何年経っても忘れる訳が無いじゃ無いですか、ねぇ、弁慶さん!」


「フン!」


「セシルもまた背が伸びたな」


「あら、ツナマヨ様、年寄り染みて聞こえますわよ!」


増えすぎたハイオークの集落を、ギルドからの依頼で、討伐して来たジビカガイライ。


弁慶達はツナマヨの案内で、二階の部屋に通されると、無骨な冒険者の男達の息が漏れる。




普通の冒険者が入れない豪華な部屋で、大きなテーブルに出されたお茶を飲む弁慶達。


クロは職員が出した桶の水を無視し、高そうな絨毯の上に横になる。


「また、出世するんだってな?」


弁慶が持つと小さなティーカップで、お茶を啜りながら話始める。


「ああ、とうとう引退するそうだ。あの爺さん」


ため息混じりに、嫌そうなツナマヨ。


「五賢人になるなんて、大したもんじゃないか! 旦那様と肩を並べるんだぞ」


「これも惣一郎殿が残してくれた金を、好きに使えと言ってくれたベンゾウ達のおかげだ。だがな〜 こう机仕事ばかりでは、身体が鈍るのだ! 折角の刀が腐ってしまう」


「大分厄災も減りましたしね、弁慶さんもハイオークばかりじゃ退屈よね」


「平和になって退屈なのはアタイらだけさ! そう言えばエル達が、また新しくチーム作るんだって?」


「ああ、トーマとゴザが引退したのでな、エルとギコルでまた、一から始めるそうだ。エルには魔法教官としての話を進めたんだがな」


「ゼリオス達ハツネツガイライも、正式にノイタジアの騎士になったし、残ったのはアタイらジビカガイライと、ミコ達ショウニカガイライだけか……」


「ワイドンテは?」


「あそこも内輪の揉め事が絶えないからな。それよりベンゾウ殿はどうなのだ?」


「相変わらずだよ、旦那様は生きてるって依頼が無いと、島中を探し回ってる」


「葬儀の最中に遺体が消えれば、そう信じたくなるのも分かりますが……」


「そうか…… 手がかりは無いままなのだろう? 元々この世界の住人では無いと言ってたし、きっと死して故郷に戻られたのだろう…… 惣一郎殿は……」


「多分な、あれは別れの言葉だった……」


弁慶も未だ想い続けているのだろう。


涙が溢れない様に上を向く弁慶。


世界を救った仲間との再会は、辛い過去を思い出すと、みんながそれぞれの道を進んでいた。







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