十二話【最初のイメージ】
瞬間移動を繰り返し、町に半分近くまで戻って来た惣一郎達が、休憩をとる。
見晴らしの良い荒野でテーブルを出し、お茶を飲んでいた。
「やはりこの紅茶は、香りが良いな」
ご満悦のスワロ。
すると遠くに黒い影が砂埃をあげ、近づいて来るのが見えた。
厄災かな?
だが、焦る様子も無くお茶を飲みながら、見守るふたり。
近付くにつれ、影が無数の脚を持つゲジゲジである事に気付く。
それを追い掛ける、大きな変わったツノの蟲。
呑気にテーブルに図鑑を広げる惣一郎。
「オウゴンオニクワガタかな?」
「強いのか?」
こちらも呑気に、紅茶を啜るスワロ。
「さぁ〜」
羽を広げ飛んでいるクワガタが、ゲジゲジに追い付くと6本の脚で上から絡め取り、大きな砂埃をあげて地面を滑る。
砂埃が惣一郎達まで届くと、宙に浮く換気扇の羽根部分だけが数個、風を生み砂埃を押し返す。
殺虫剤を撒く為に、惣一郎が用意した物であった。
「相変わらず便利な魔法だな……」
「ハハハ、まぁね! やってみるか? あれ」
笑みを浮かべ、惣一郎の作った銀色の杖に手を伸ばすスワロが立ち上がる。
「厄災の死骸は金になるのだ!」
そう言うと杖を掲げ、集中するスワロ。
空には大きな光剣が4本現れる。
一本6m以上はあるだろう、巨大な剣。
シルエットは、よく見る両刃の剣。
杖を振り下ろすスワロに遅れて、勢い良く飛んで行く光剣は、クワガタの手前でクルリと回り、巨大なクワガタを五つに分断し地面に突き刺さる。
凄いな…… 硬いクワガタにも通用するのか。
下のゲジゲジをも切り裂き、光の粒になって消えていく光剣。
振り返るドヤ顔のスワロ。
「はいはい、すごうございます」
ニコっと笑い喜ぶスワロ。
ベンゾウが居たら『次はベンゾウ!』って対抗心を剥き出しにするだろうな〜
惣一郎は二匹の厄災から魔石を取り出し、死骸を収納すると、また町に向け歩き始める。
「飛ばないのか?」
「少し歩こう」
まったりと……
夜には町の近くの林にテントを出し、町へは明日の朝から行く事にした。
「なぁ、光剣の剣のイメージって、他の剣にも出来るのか?」
夕食を作りながら惣一郎が、話しかける。
テーブルに皿を並べながらスワロは、
「剣のイメージ? 考えた事も無かったが」
元々魔導士のスワロは、騎士が良く持っている剣しか良く知らないのだろう。
光剣の魔法を最初に見た時のイメージも強い。
ふたりは夕食のミートソースのスパゲッティを食べ終えると、惣一郎の出した様々な剣の写真が載っている本を見ながら、イメージを語り合い、遅くまで仲良く過ごした……
遅く起きたふたりが、町に戻ったのは昼頃だった。
スワロにとってあまり、良い思い出の無い町。
惣一郎はさっそく手に入れた蟲の死骸を、買い取ってくれる店を探していた。
スワロの話では、解体屋と呼ばれる店があるそうなのだが……
町で話を聞こうにも、みんなスワロを見ては、分かりやすく嫌な顔を浮かべ離れて行く。
邪悪なエルフね…… 見た目は綺麗だと思うんだが……
スワロもフードを目深に被り、顔を隠す。
「スワロ、気にするな。堂々としろ」
「惣一郎殿♡」
だが、迷惑はかけたく無いと、フードは取らなかった。
そこに細いミノタウルス、奴隷商の牛男と道で行き合う。
「おお、アンタか! 急に消えて驚いたぜ」
「ああ、まぁな、先日は世話になった」
「なぁに、コッチも売れ残りが売れて助かったさ! しばらく見なかったが…… おいおい、たまげた! なんだ随分と良い物食わせてもらってるんだなお前!」
すっかり元通りになったスワロを見て、驚く奴隷商人。
だが、スワロは何も答えなかった。
「丁度いい。俺達は解体屋を探してるんだが知らないか?」
数日で驚く回復を見せたスワロに、驚く牛男がやっと目を逸らし、答える。
「なんだ、運良く死骸でも見つけたのか?」
「ああ、そんな所だ」
「解体屋なら西側の町外れだ。馬車が多く止まってるから、行けば直ぐわかるよ」
「そうか、ありがとう。世話になったな」
そう言うと惣一郎は足早に西へ向かう。
スワロを気遣っての事だろう……
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