二十二話【キッド】
前衛不足に悩む惣一郎は、腰に鈍い痛みを感じていた。
離れた傭兵達が戻ってくると、街の人達と歓声をあげ始める。
「勇者だ!」
「勇者が街を救ったぞ!」
「「「 おおおお! 」」」
「まさか一目惚れした相手が、魔女とはな!」
その中から格好つけた帽子の男が現れ、瓦礫に片足を乗せ、人差し指で帽子を持ち上げる。
嫌そうな顔を全開で見せるスワロ。
惣一郎は腰の痛みで、1ミリも動けない。
少し力を入れただけで、腰でガラスが割れる様な痛みに汗が噴き出る!
すると背後の崩れた家屋から、生き残った蟻が一匹スワロの背後に現れる!
マズイ、気付くのが遅れた!
スワロが振り返り!
座り込むドラミが杖を持ち上げる!
ゴゴも慌てて動くが、膝が折れる!
惣一郎は脂汗を流す事しか出来ない!
いち早く動けたのは、スワロ越しに視界に捉えていたカウボーイのキッドだった!
両手をコンパクトに畳み込み、前屈姿勢でスワロの横を通り過ぎると、襲い掛かる蟻の頭の下に潜り込み、一回り大きくなった背中から、捻り上げるアッパーカット!
拳は天を突き、大きな身体を仰け反らせる蟻の顎は砕け、自慢の大きな牙を折る!
動けない惣一郎が目にしたのは、筋肉で大きくなった背中が、着ていた服を引き裂き、その背中にに浮かぶ魔法陣だった。
仰向けに倒れ暴れる蟻を、ドラミの蔓が拘束する。
落とした帽子を拾い、スワロに手を差し出すカウボーイのキッド。
「怪我は無いかい、お嬢さん!」
スワロは無駄になった頭上の光剣を光の粒に変えると「問題ない」っとだけ言い放ち、惣一郎の元へ駆け寄る。
「可愛いお嬢さんだ」
惣一郎に肩を貸し、ゾッと寒気がするスワロ。
「すまんな、仲間が助けられた。俺は蟲を倒す旅をしている惣一郎だ。確かキッドだったか?」
スワロにもたれ掛かる惣一郎。
ゴゴ達も遅れて駆け寄る。
「ああ、蟲専門の奴隷商をやってる[キット・ガンプラ」だ、キッドと呼んでくれブラザー」
ガンプラって…… そっちのキットかよ。
返事をしながらキッドは、拘束され踠く蟻に近付き、隷属の契約を始めると陣が現れる。
「この蟲は貰っていいか?」
背中に描かれた陣は、さっきの様に光ってはいなかった。
「あっ、ああ……」
惣一郎の返事に、ドラミが蟻の拘束を解除する。
顎が砕け、震えながら立ち上がる蟻は、大人しくキッドに頭を下げる。
「まさか一目惚れした女を追いかけて、こんなレアな蟲が手に入るとはな! これも全て君のおかげさハニー!」
スワロにウインクを飛ばすキッド。
惣一郎はゴゴにおぶられていた。
「じゃ、俺たちはこれで!」
そう言うとゾロゾロと、出しっぱなしのツリーハウスへと歩き出す惣一郎達。
歓声を上げてた街の人達は、街を救った背中を黙って見ていた……
当たり前の様に付いてくるキッド。
うざい……
ゴゴにおぶさる惣一郎は、みんなにコールを飛ばし、ゴゴに掴まる様に念話を送ると、一瞬で全員消える。
ツリーハウスまで転移したのだ。
見失ったキッドと蟻は、キョロキョロと辺りを見渡していた……
ユグポンに戻る惣一郎達。
惣一郎はそっとベッドに寝かせられ、しばらく安静にする。
回復薬を使えば?っと言うスワロの提案に、惣一郎は「勿体無い、寝てれば治る」っと、横になる。
ベッドの周りには村のみんなが集まりだし、賑やかになる。
安静にならん……
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