十二話【望んだ生活】

扉を出たミコが驚く!


目の前にいたのは、町の飲み屋で後片付けをする白いエプロン姿の店員であった。


町の通りの真ん中に突然現れた一本の木に驚き、腰を抜かしていた所に遅れて現れたミコ達に更に驚き言葉を失う。


ユグポンより遠く距離があるのか、まだ空は暗かった。


「おいガオ! コイツで間違いないんだよな?」


「ガオ?」


あまりにも場違いな光景に、戸惑うミコ達。


店の奥から別の店員の男が現れ、驚き声を上げる。


「おい、何の真似だ! 店の前にこんな木を生やしやがって、営業妨害だぞ!」


振り返るミコが、ここで初めて道の真ん中に生えた大きな木に気付く。


唸り喉を鳴らす大きな白い魔獣にまだ震える女。


流石に旦那が間違えたんだとミコが武器を下ろすと、ピノが光剣を女の足に撃ち込む!


ギャーーーーー!


驚くミコがピノに掴み掛かる!


「おい何してんだ! よく見ろ、間違ったんだよ!」


「疑うな!」


ピノの視線に釣られ、また振り返るミコ。


長い黒い脚を腰から新たに生やし、宙に浮く赤い目の女。


長い脚は更に増え、傷付いた脚を含む8本の脚を店の中に広げるエプロン姿の蜘蛛女。


「なぜここが、妾を見破った!」


黄色と黒の縞模様の腹部をスカートから出し、赤い目が増えていく。


驚く店員の男が下がろうと足を滑らせ転ぶと、長い脚がその男に突き刺さる!


蜘蛛女が戦闘に備え、狭い店内で踏ん張る為に広げた脚に運悪く刺さり、蜘蛛女もパニックで驚いている様子だった。


「ああ、おのれおのれおのれ! よくも妾の平和な生活を!」


状況が理解出来ずに固まるミコ。


ヒラヒラ舞うエプロンの奥から腹部が現れ、先端から白い液体を飛ばす蜘蛛女!


ガオがミコを庇い背中で液体を受けると、粘着質な白い糸がガオの自由を奪う!


店内に飛び込むクロ!


テーブルやイスを薙ぎ払い、脚に噛み付く!


バランスを崩す蜘蛛女に光剣が刺さり、腹部から伸びた糸が切れる!


すでに狭い店内に追い込んだ形になっている!


ガオは必死で糸を解こうと踠く!


「ふざけやがって!」


ようやく獣化したミコが、鉈を両手に腰を落とす!


「クロ下がれ!」


回転しながら店内に飛び込むミコ!


四角い店の中を縦横無尽に跳ね回ると、斬り刻まれる蜘蛛女!


叫びも店の崩壊音に消されて行く……


ミコの回転が止まると瓦礫の中、壁に押しつぶされた赤い目だけが力無く睨んでいたが、ピノの8本の光剣が、その赤い目に突き刺さり動かなくなった。


「何だったんだコリャ! 普通に生活してたのか?」


ようやく夜が明け、騒ぎに遅くまで店を開けていた数軒から、数人が通りに顔を出していた……







ドラミの檻の中で、惣一郎に背を向けるミネア。


「惣一郎様、どうぞお疑いならその槍を私に、お刺し下さい」


両手を握り膝を突くミネアは、祈る様に背を向けて覚悟した言葉を放つ。


ミネアっぽい……


惣一郎も戸惑っていた。


だが魔女と繋がった惣一郎には、確かにミネアから魔女を感じる。


魔女に騙されてるのか?


「ててて手伝おうか?」


いつの間にか檻の中にいた小さな火の精霊。


「あの美味しい、のの飲み物のお返しに、ててて手を貸そうか?」


『今それどころじゃ無い!』っと言いたい所だが、惣一郎はすでにウンディーネの不思議な力を経験していた。


「どうする気だ?」


宙に浮いた槍も、惣一郎の動揺を隠せずにいた。


「かか彼女は恋がしたいのさ。でもこの子はすでに恋をしてるから、操らなくてもこここ恋が出来るのさ」


ちょっと何を言ってるのか分からない……






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