十話【追跡24時】

町はまだ避難に慌ただしかった。


魔獣の襲撃が終わった事をまだ知らない。


それを追って来た巨大な蟲がいた事も。




匂いを辿るベンゾウが、匂いの多さに足を止める。


だがここまで来れば惣一郎にも予測が付く。


転移屋の前だ。


押し寄せる人集りを掻き分け、中に入って行く惣一郎が、転移屋の職員を捕まえると、


「帽子に俺と同じ、白いローブの男が来なかったか!」


っと、幻腕で掴み掛かる。


「ゆ、勇者…様?」


同じ質問を繰り返す。


「ご、ご覧の様に、この人の数で……」


「勇者様と同じ白いローブ? さっき[テネル]に飛んだよ」


近くにいた別の職員が見ていた!


惣一郎は掴んだ手を放し、謝る。


「済まなかった、俺もすぐそのテネルに飛びたいんだ」


「こ、こっちです!」


ベンゾウと職員を追いかけ、人混みを掻き分け進む。


部屋から飛んだ先の転移屋で、投げ捨てられたローブを見つける。


「ベンゾウ、追えるか?」


転移陣が光る部屋で、クンクンと歩き出すベンゾウ。


転移屋を出て街に出ると、様々な香辛料の匂いが漂う賑わう繁華街の様だった。


「ダメ、ご主人様、匂いが多すぎる!」


握りしめる拾ったローブを収納すると代わりに理喪棍を掴む惣一郎。


集中しサーチを広げる。


だが、キッドらしい反応は見つけられなかった。


逃した……


スワロを攫われた……


想像もしていなかった。


スワロが攫われるなんて……


沸々と込み上げる怒り。


何故、何故スワロを……


スワロに一目惚れしたと現れたキッド。


そのキッドが……………




………スワロに何かしたら、コロス!


爆発する様に吹き出す、黒い魔力の炎!


街中に立つ惣一郎は、吹き出す魔力で周りの人や店、テーブルやイスを吹き飛ばす!


「ご主人様! ダメ!」


はっ!っと我に帰る惣一郎。


繁華街は突然の突風に、店は滅茶苦茶になっていた!


吹き飛ばされた街の人にも怪我人が出ている様子で、皆が突風のあった中心に立つ惣一郎に注目している。


しまった!っと惣一郎はベンゾウを抱え、瞬間移動で消える……





「落ち着いた?」


街を囲む高い外壁に座り、街を見下ろす惣一郎に、ベンゾウが尋ねる。


「ああ、すまない……」


謝りながらも、サーチで街全体を見張る惣一郎。


「ご主人様が冷静にならなきゃダメでしょ!」


「そうだな…… ありがとうベンゾウ」


反省する惣一郎は、キッドの仲間が2人いた事を思い出す。


いつからいた?


最初から種を持っていたのか?


村に戻ってキッドについて、調べる必要があると気付く。


そして、村を前の町に置いて来たことにも、その町の名前を忘れた事にも気付く……




『ミネア、すまん。今テネルって町にいるんだが、ドラミにユグポン持って来るように伝えてくれ』


『惣一郎様! スワロさんは!』


『見失った……』


『………わかりました、直ぐに向かいます!』




それからしばらくすると、ドラミが繁華街の惨状に驚いているのが、惣一郎のサーチに見てとれた。


瞬間移動で連れ去る惣一郎。


「なっ、何があったんや!」


「い、いや…」


「ご主人様がやったの」


すぐバラすなよ……


軽い怪我人が数人ですんだが繁華街の店は、すぐには営業出来ない状態であった。


「何しとんねん!」


怒りながらドラミが種を地面に置くと、木が現れる。


街の外れ外壁近くに村を出し、中に入ろうとするドラミが動かない惣一郎を見る。


「ドラミ、街をサーチで見張ってるんだ。ジルを呼んで来てくれ。あと騎士団にも事情を説明し、戻るように連絡を」


溜め息を吐くドラミが木に消えて行く。




「お呼びですか? 惣一郎様」


「ああ、キッドに付いて知ってる事を教えてくれ、全部だ」


「はい…」


まぁ案の定ジルからは、近くの街に住んでる変わり者の噂程度の情報しか得られなかったが、参考になる情報はあった。


「魔女に異常な興味を持っていた?」


「はい、おかげで女神信仰者と噂され、孤立してたと聞いた事が、まぁ元々、あの性格ですから孤立はしてたんですが」


「ありがとう。今度はババを呼んで来てくれるか?」


「はい」


キッドが女神信仰者なら……


スワロに近づいたのは、女神信仰者だったからなのか?


「お呼びですかな?」


「ああ、すまんが婆さんの復讐は遅れそうだ。先に女神信仰に付いて詳しく教えてくれないか?」


「女神信仰ですか……」







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