九話【裏切り】
カマキリの目がこっちを見ている様だったが、食べる手を止めない。
思考が止まり、ただカマキリを見上げる、壁の上の傭兵達。
タイガも間近に見る大型の蟲に、固まる。
ホルスタインは倒れているギネアを抱え、額に汗を流す。
そんな中、ベンゾウはキョロキョロとカマキリを無視して、スワロを探す。
クンクン。
「どうだ、何か分かるかベンゾウ」
この男も背後のカマキリに動じず、消えたスワロを探す。
「匂いが動いてないよ。ここで消えたみたい」
「ここで?」
「でも、もう一人は、町の方に」
「キッドか!」
「わかんない」
どう言う事なんだ、なぜキッドだけ町に?
「他の匂いは? それ以外にも誰かいた様な匂いはするか?」
「その人だけっぽいよ…… スワロ消えたの?」
カマキリを無視する惣一郎とベンゾウに、まさか気付いてないのか?っと不安になるタイガ。
「だ、旦那…」
「誰か、誰かスワロを見なかったのか!」
急に大声を出す惣一郎。
背後のカマキリも手が止まる!
意味がわからないこの状況に焦りからか、怒りを露わにする惣一郎に何かを感じたカマキリが、警戒し食べかけの狼男を落とすと、両手の鎌を広げて威嚇する!
ギッチチチチ!
トゲトゲの脚を曲げ、低く構えるカマキリ!
それを惣一郎は背を向け、まだ無視をする。
その惣一郎の後ろに、ふわりと降り立つベンゾウ。
両手から青白い炎がワッと吹き出すと、2本の小刀に凝縮されていく!
ピタッと止まるカマキリ。
「ご主人様、今それどころじゃないの!」
言葉を残す様に消えるベンゾウが、ふわりとカマキリの後ろに、白いローブを広げ着地する。
後ろの気配に気付くカマキリの、振り返ろうと曲げた首が落ち、腕が落ち、胴が千切れるように前に倒れる。
ドスンっと見た目の大きさより軽い音をたて、脚が力無く折れ崩れる。
ベンゾウも怒っていた。
訳も分からず、消えたスワロに。
その場にいた惣一郎以外の全員が、巨大なカマキリが出た以上の驚きを見せる……
惣一郎はホルスタインに抱えられたギネアに掴み掛かり「起きろギネア!」っと、声を荒げる。
「うっ、ううぅ……」
「ギネア! 何があった! スワロは!」
「うぅぅ、ここは…」
「ギネア、誰にやられた!」
「…………そうだ! キッド! アイツは!」
やはりキッドなのか……
ギネアが思い出す怒りを抑えながら、語る。
魔法を放つ為、集中するスワロにキッドが後ろから、首輪をかけたのが見えたそうだ。
正気なく立つスワロにギネアが駆け寄ると、腹に
キッドの拳がめり込み、苦痛に膝を突くと、壁際に不自然に生えた木の中から、ふたりの男女が現れ、スワロをその木の中に連れて消えるを視界の端に捉える。
キッドがその木を種にすると「すまない」っと、苦痛に歪むギネアの顔に拳を振り下ろし、意識を失ったと言う。
襲って来たライノルフ達は、壁の上の傭兵に襲い掛かるが、ギネア達には見向きもしなかったそうだ。
ツリーハウスか……
ツリーハウスの中に居ては強制転移出来ない。
中の2人はキッドの仲間か?
「ベンゾウ、キッドを追うぞ! タイガ、後は任せる。ギネアを連れ村に戻っててくれ」
「あっ、ああ」
ベンゾウと惣一郎は、キッドの匂いを追い、町に走り出す。
状況が飲み込めない傭兵達は、惣一郎達を目で追うが、見えなくなると外壁の外に視線を戻す。
無数のライノルフの死骸と、バラバラになった巨大な蟲。
苦痛と悔しさに震え立つ鱗族。
肩を貸す大型な獣人の女性に、オロオロする虎の獣人。
傭兵全員が口を開けたまま、町の危機は去ったと思っていいのか悩んでいた。
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