十一話【追え警察犬!】

ババ曰く、女神信仰と魔女崇拝は似て非なるものとの事。


神を讃え祈る様な、心の拠り所としてある女神信仰とは別に、魔女崇拝は過激な宗教団体であり、組織的に活動する太古の争いを今も引きずる時代錯誤な集まりである。


ババの村の様に古い教えを守り、御神体と蟲を祀って来た女神信仰とは違い、今の世を変えようと過激な活動するのが魔女崇拝。


惣一郎にとっては、どちらも違いはない似たもので、どうでもよかった。


「つまり、キッドは魔女崇拝の方で、その宗教団体がスワロを攫ったって事か?」


「今回の過激な行動からおそらく……」


「で、奴らは何処にいるんだ?」


「申し訳ございません私には…… 彼等は何処にでもおります。鳴りを潜めどの町にも……」


手掛かりなしか……


いや、相手が団体であり魔女を崇拝する者なら、スワロに危害を加えるとは考えにくいか?


クソ、どう動く!


町全体を見張る惣一郎のサーチ。


怪しい動きも無い……


町の木に生体反応も感じない。


すでに他の町に飛んだのか?


だがベンゾウの鼻は、転移屋を出る所までは追えていた……


考え込む惣一郎の元に、回復したギネアがホルスタインと現れる。


「惣一郎様、申し訳ない! その場にいながら」


「後悔は後だ、ツリーハウスから出て来た2人について思い出してくれ!」


「はい… 確か、女はフードで顔は見えなかったが、スワロ様を引っ張る腕は、浅黒く褐色だった様な……」


「ダークエルフか!」


「腕だけでしたので、ですが魔女崇拝の者ならその可能性が高いかと……」


自分の失態と、落ち込む様子のギネア。


「もう1人は?」


「大柄な男だったかと……」


そちらもフードで、背格好しか分からないと言う。


突然の事だ、仕方ない事だろう……


「いや、そうだ! 匂いが、甘い匂いがしました! あれは[ドルガの香]」


「ドルガの香?」


「はい、儀式などでよく使われるお香です!」


葬儀や祈りの際に使われるというお香。


良く使われる物なら、追うのは難しいか?


「誰か持ってないか? そのお香」


ギネアと一緒に来たホルスタインが、探して来ますと、村に入って行く。


すぐに畑仕事の最中だったチャイを連れ、戻ってくるホルスタイン。


状況が良くわからないアジア人っぽい人族のチャイが、小さな袋を差し出す。


「これが、ドルガの香です」


先日街に買い物に出たミネアに頼み、亡き家族に祈る為、町で購入した物だった。


「ベンゾウ!」


クンクンと匂いを嗅ぎ出すベンゾウ。


キッドが持つツリーハウスの中なら期待は薄いが、他に手がかりも無い。


「ギネア! 動ける者を集めて町の捜索にあたってくれ! まだこの町にいる可能性が高い」


「わかりました!」


「俺とベンゾウもこのまま動く、魔女崇拝について、この町で何か情報が無いかも頼む!」


クンクンと歩き出すベンゾウを追いかける惣一郎。


ギネア達も村に戻り、捜索の準備を始める。






クンクンとゆっくり歩くベンゾウの後を、追いかけながらサーチで匂いも感じれればと悔しがる惣一郎。


スワロを心配するベンゾウの鼻にも、気合いが入る。


「ご主人様、あっちとあっちから匂いがするけど、あっちの方が新しい匂いみたい」


この広い町でピンポイントで匂いを見つけるベンゾウ。


警察犬並みの嗅覚だ。


「新しい方に行ってみよう!」


また、クンクンと歩き出すベンゾウ。


本当はコイツ、猫じゃなく犬の獣人じゃないかと思う惣一郎。




繁華街から離れ、古い建物が並ぶ町並みに、目を向けるベンゾウ。


白い塗り壁の建物を指差す。


人が出入りする寺院の様な雰囲気の建物であった。


やはり匂いを辿るのは厳しかったか……


惣一郎のサーチには中で、祈りを捧げる人の姿が見えていた。


「ご主人様、さっきのキッドって人の匂いだ!」


でかした!


「薄っすらだけど間違いないよ、さっきと同じ匂い! あの中だよ」


だが、惣一郎のサーチにキッドの姿はない。


それでもベンゾウを疑う事なく、中に入って行く惣一郎。


寺院の奥にある地下室に、惣一郎も何かを見つけたのである。


「お待ちを! 貴方は?」


祈りを止め、突然入って来た惣一郎に驚く町の人。


「すまんが、奥を見せてくれ」


「それはできません! 貴方は誰なんですか! ここは神に祈りを捧げる神聖な場所ですよ!」


司祭なのだろうか?


変わった格好でそれっぽくない男が、鈴の付いた短い錫杖を前に惣一郎の行手を遮る。


「祈る神って魔女か?」


惣一郎の言葉に驚き、動揺を隠せない司祭。


「い、いえ、ここは[テオリク神]を祀る神殿です。死者が神テオリクの元で、安らかな……」


「そのテオリクって魔女の事か?」


「なっ、何を馬鹿な事を!」


「この奥の地下に俺の仲間を攫った男が降りて行かなかったか?」


冷静に話しているつもりの惣一郎だったが、周りが歪んで見えるほどの魔力の漏れを、必死に制御していた。


時折見せる黒い炎。


司祭の男も異常な魔力に、この男が勇者だと気付く。


「な、何かの誤解では……」


クンクンとお構いなしに進むベンゾウ。


神殿にいた町の人は皆逃げ出していた。


「お、お待ち下さい! な、何もありません!」


慌てる司祭に惣一郎は、完全に仲間と確信し、歩きながら幻腕で司祭の襟を掴み持ち上げる!


「俺の仲間を何処にやった!」


「な、なんの事ですか!」


階段を降りると、地下室には消えかかった魔法陣と、もう1人司祭と同じ格好の男が驚いていた。


惣一郎が感じた地下室にあった物は、転移の魔法陣だった。






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