五話【カモナマイハウス!】

「あ…主人よ! あれ、揺れてないか?」


「揺れてるな……」


近付く惣一郎。


パイジンのツリーハウスより遥かにデカい大木。


大き過ぎて、近くじゃ揺れているのが分からなかった様だ。


「だがこの大きさじゃ、逆に目立たないか?」


ササササー


葉が擦れ合い木が揺れる。


惣一郎は何気なし幻腕で大木に触れると、一際大きく揺れ、葉っぱが舞う。


そのまま中へと消えて行く惣一郎。


「主人!」




惣一郎は落ち葉が積もる木の空洞の中に居た。


暗いが…… 幻腕の明かりで薄っすら見える。


「コレじゃ狭いな……」


その瞬間勢いよく広がる空洞!


「ちょ、広すぎるよ!」


すると広がりが止まり、惣一郎のイメージした広さまで戻る。


「凄い……」







スワロは大木を何度も触り叩くが、中に入れないでいた。


「主人! 主人よ! 聞こえるか!」


ウロウロと大木の周りを回り始め、入り口を探すが、どこにも無い。


「惣一郎殿……」


スワロは大木を見上げ『待つしか無いのだろうか?』っと思う。






すっかり陽が暮れた森の中。


惣一郎が出していたテーブルに腰を下ろし、大木を眺めるスワロ。


そこに、ようやく戻って来た惣一郎。


「惣一郎殿! 心配したぞ! もう少しで火を着ける所だったのだぞ!」


危ない……


「スマンスマン、夢中になっちゃって!」


惣一郎はベンチテーブルを収納すると、スワロの手を取り、大木へと歩き出す。


幻腕で触れると、そのまま木に溶け込む様に入って行く。


「なっ! 何だここは!」


驚くスワロ。


土間の部屋が広がり、奥に扉が見える。


広さは12畳ほど。


壁から生えた枝の大きな実が光り、部屋を照らしていた。


「その扉はトイレだ! 土が分解するからスライムも要らないぞ」


中は地球産の見慣れた洋式のトイレ。


後ろのタンクからは天井へと、パイプが続いている。


「部屋はこっちだ!」


土間の右横に板張りの部屋があり、階段がカーブを描き上へと昇っていた。


「ここで靴を脱ぐんだ」


惣一郎の手を離しブーツを脱ぐスワロは、また惣一郎の手を取り、階段のある板間へと上がる。


驚きっぱなしであった。


階段を上がると、左に大きなキッチンが広がる大部屋へと出る。


大きな窓から外が見える部屋は24畳はあろうか、ちょっとした道場の様な広さであった。


キッチン横には、大きなテーブルとベンチチェアーが置かれ、8人ぐらいで騒げそうな大きさであった。


右には床から天井まで伸びた、大きなガラス張りのスライドドアが並び、開放的な板間に月明かりが射し込んでいた。


その奥に四段ほどの階段が段差で部屋を分け造られており、8畳ほどのベッドルームになっている。


キングサイズのベッドが置かれており、奥に丸い大きな窓が、夜の森を覗かせている。


惣一郎の手を握るスワロの手に力が入る。


「次は、こっちだ」


惣一郎は登って来た階段に向かうと、隣に寝室と同じ様な段差があり、奥へと続いている。


登ると広い廊下の左横に暖簾がかけられていた。


奥には右にカーブする階段が昇っている。


暖簾の先には棚と籠が並び、仕切りの向こうに風呂が置かれていた。


大きなヒノキで出来た桶風呂。


屋根はあるが、壁がない露天風呂だ。


石が敷かれた洗い場。


脱衣所には、細い竹の様な物が敷き詰められていた。


ここで初めてスワロが口にする。


「素敵……」


すりガラスのスライドドアを開け暖簾をくぐると、左に階段が続き、登って行くと扉がある。


開けるとそこは、屋上であった。


遠くまで続く森が上から一望出来る。


だが、高さがおかしい?


階段で三階ほど登った高さでは無かった。


森の中で一番大きな木の天辺に出来た屋上には、大きな貯水タンクが置かれていた。


「コレで部屋のあちこちに、水を引いてるんだ」


スワロには理解出来なかったが、耳には届いていた。


「凄いな、主人様よ! もはや城ではないか!」


城では無いが……


「喜んでもらえた様で!」



惣一郎の魔力で出来たツリーハウスは、パイジンの所で見た物とは、全くの別物だった。



キッチンに戻るふたりは、テーブルに夕食を並べ、酒を交わす。


充実した旅が約束された喜びに、酔いしれるふたりであった。






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