五話【さらなる陰謀】

「ロンシール様! ゲルドマ様が戻ってまいりました」


慌ただしい洞窟の奥で、信者の男達に指示飛ばしていたロンシールが振り返る。


「何処だ! それで勇者は!」


「そ、それが、酷い怪我でして……」


「おのれゲルドマ、しくじったか!」


怒りに身を震わせる銀髪のダークエルフ。


指示を聞いていた信者達も、怒りを露わにするロンシールを恐れる。


「すぐに回復させろ! 動ける者は森の捜索に参加! 決してキッドと女神を逃すな」


ロンシールの指示を聞くや直ぐに動きだす信者達。


ドガン! 「なぜ見つからんのだ!」


目の前の丈夫そうな机を、片手で粉砕するロンシール。


そこに現れる派手な服の小太りな男。


「ロンシール様、お怒りを収められよ」


「教皇か!」


「すでにキシルとネネルの分体が追っております。直に見つかるでしょう。おかげでゲルドマの方には手を貸せなかったそうですが、町には蟲を集めつつあります」


「我々が留守の時に、女神どころか御神体まで失うとは、タイミングが良過ぎる!」


「あのふたりをお疑いで?」


「分からん! だが都合が良すぎる。ウイガスに同行を求めたのは貴様だったな」


「そんな、私まで!」


「信頼が欲しくば、早く取り戻すのだ!」


「お任せ下さい。私の手の者も解き放ち、直ぐに捕えて見せましょう」


頭を下げ、暗い廊下に消えていく教皇。


慌ただしい信者とすれ違う教皇が、人気の無い地下まで降りて行くと隠し扉を開け、中に入って行く。


地下水が漏れる、湿気の多い小部屋には、傷だらけの癖っ毛の金髪の男が鎖に繋がれていた。


「フンッ! まだ息はあるようだな、キッド」


濡れた汚い床につけた顔を力無く上げる。


「き…さま……」


「お前が裏切るのは知っておったのだ。私が与えたチャンスとも知らずにまんまとハマりおって」


「な……ぜ……」


「生意気に知りたいか? はははは! 良いだろう。冥土の土産だ」


暗い部屋で不気味に笑う教皇。


「みな、御神体を口にして魔女の力を得たが、魔女の怨念が強く、いつの間にか皆が皆、自分が魔女だと思っておるようだが、ワシは違う! 実際に魔女に仕えていた者を食べたからな! 自分が何者か思い出したのだ!」


「う……ぅ…」


「おいおいまだ死ぬな、面白いのはココからだ! みんなあの娘が器になると思っているが、あんな借り物の魔力では、器にならん! 勇者だ! あの男こそ、魔女の器なのだ!」


「う……」


「ははは、驚いたろ! まだ驚く話があるのだ! 御神体はまだわずかに生きているのだ! 魔女その人がな! 手足を喰われ、あのような干からびたお身体になってもなお、新たな器を望んでおられるのだ! クククッ、あの娘が逃げ出し何も知らずに御神体を持って帰れば、後は…… あっはははははははは!」


「…………」


「聞いておるのか?」


「………」


「ちっ! まぁ、時が来れば裏切り者の遺体は役にたつか…… もう直ぐです、魔女様……」


教皇が暗い部屋を出て扉を閉める……







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