三話【被害者と加害者】

惣一郎はドラルの足の紐を切り、後を付いていく。


潰れた手を痛々そうに歩きだすドラル。


「なぁ、お前らは蛮族の親戚かなんかなのか?」


失礼な質問であった。


この状況で無ければ命懸けの決闘になる質問だが、何も知らない惣一郎に悪気は無かった。


「俺らを魔物と一緒にするな! 牙と鼻が似てるだけだろ」


「すまん、何も知らなくてな。昨日の今日で会ったもんで…… それに不思議に思ってたんだ」


「フン! 何をだ」


「蛮族の巣穴を潰したんだが、メスも子供もいなくてな、アイツらどうやって増えてるんだろうかと」


「魔物だぞ! 人を攫って孕ませるに決まってるだろ! あんな環境だし成長も早い。一週間そこらで大きくなるらしいぞ、孕ませた女の魔力にもよるが…… って待て、じゃ本当にあの数の蛮族を倒したのか?」


「ん? ああ、だからそう言っただろ。巣穴に案内しようか?」


「い、いや、いい…… ここだ」


ドラルが案内した場所には、大きな岩が崩れ山になっていた。


「この下に入り口がある。向こうで塞いでいるので通れないが、通話は可能だ」


「へぇ……」


「………」


「…………」


「待て待て、俺の手を潰したのアンタだろ!」


溜め息を吐く惣一郎は、嫌々左の幻腕を出すと、岩山に殴りかかる!


砂煙を上げ、弾け飛ぶ岩。


一撃で山は消えていた。


残った瓦礫の影に、魔法陣が見える。


てっきり入り口と言うから、鉄の扉でもあるのかと思っていた惣一郎。


ドラルが残りを足でどかすと、魔法陣に手を着く。


惣一郎は、これ見よがしに盾や槍を浮かせ構えると、


「安心しろ、あの蟲の死骸を見りゃ信じるだろう。ここまで来て襲う真似はしない」


だといいが……


念話だろうか? ドラルが目を閉じ集中していると魔法陣が光だし、赤から青に変わっていく。


信号機みたいだ。


すると魔法陣から男が現れる。


長い髪を後ろに縛る初老の男。


足元の魔法陣はまた、赤色に変わっていた。


「貴方が蟲を倒したと?」


「ああ、惣一郎だ。トイプチに急ぎたいので確認を早く頼む」


男は、手を縛られ痛みで汗を流すドラルを見ると、


「ザイサイの[コイノマ・ジナイ]だ。その蟲は?」


なんて名前だ…… しかも見た目が合ってない。


ドラルが歩き出し、死骸を出した場所に向かう。




「なるほど…… 情報と一致するな」


白髪混じりの髭を撫でながらコイノマの表情が和らいでいく。


「ひとりでこんな大きな蟲を倒すとは…… 信じられんが…… 事実の様だな。寝ている警備隊にも合点がいく」


「転移屋を使いたいだけなんだ、のんびり付き合ってる暇もないんだが……」


「良かろう! 真っ直ぐ転移屋に向かうのならこの死骸を対価に、町に入る事を許そう」


下手にでてれば……


「急ぐのだろ?」


ん〜 仕方ないか……


「なんかこの世界を救うの嫌になって来たな〜」


「ほぉ、蟲からこの世を守ると言うか?」


「そのつもりだったんだがね。住んでる住民がガメツイ奴に、命懸けで逃げて来た者を襲うアホじゃ、やる気もせんわ」


「はっはははは! 皆生きる為だ。貴方の言う様に蟲が居なくなれば、皆が助け合う時代も来るだろう」


「勝手にしろ!」


「では、転移屋へ案内しよう!」





コイノマの後ろに付いて魔法陣から転移すると、ここもやはり地下に町が広がっていた。


どのぐらい地下なのか分からないが、広い岩肌に鉄の柱で補強されており、空は前に見た街の様に明るく、外と変わらなく照らし出されていた。


広い町並みに天井まで伸びる大きな柱が数本。


石造りの二階建ての家が建ち並ぶが、人は少なかった。


「安全な地下でも避難した者が多いのか?」


「ああ、余り深く無いからな、上であの大きさで暴れられれば崩れ落ちる心配がある」


「じゃ上に、囲いなんか作らない方が良いのでは? 地上に町がありますよって言ってる様なもんだろ?」


「あっはは、心配ご無用! 真下ではないのでな」


なるほどね……


すると、武器を持った軽鎧の男達が数人向かって来る。


コイノマが男達に指示をすると、入って来た魔法陣へと向かいだす。


「上の壁は蟲と言うより蛮族対策であったが、それも惣一郎殿が解決してくれた様だな」


「ああ、ついでだ」


「トイプチへは何しに?」


「トイプチの近所でも蟲が暴れてるらしいと聞いてな」


「ほぉ、あの数を相手にするのか」


「情報があるのか? 謝礼がわりに聞いても良いぞ」


「はっはははは、勿論だ惣一郎殿!」


転移屋を目指しながら、話を聞く惣一郎。


どうやらまた、蜂の様です。


近いと言ってもトイプチまでは距離がある為、今の所襲ってこないそうだ。


確かに巣から一定の距離しか移動しなかったな……


じゃ急がなくてもいい気もしたが、その蜂目当てに大きな蟲が来る時もあり、被害が街の近くで出た事もあったそうだ。


「ココが転移屋だ。ゴズまでの転移費用は町から出そう。せめてもの礼だ」


「ああ、払う気も無かったよ」


「あっはは、まぁそう言うな惣一郎殿! 落ち着いたらまた顔を出すが良い、その時にでもまた礼をさせてもらおう」


「ああ、気が向いたらな。まぁ、ここの町が蟲に襲われてても他を優先すると思うがね」


惣一郎はそのまま転移屋へ入って行きゴズへと向かう。


コイノマは、ちょっと後悔していた……









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