四話【伝説の…】

惣一郎は光る魔法陣からゴズの街に着いたが、転移屋を出る事も無く、金を払い別の部屋からトイプチを目指す。


結果飛ぶより早く着いたが、急ぐ事も無かった。


トイプチの街は、ルルリカ同様高い木造の壁で囲まれた大きな街であった。


転移屋を出た惣一郎が、真っ直ぐ向かったのは壁近くにある木が数本立っている広場。


人影が無い事を確認すると、種を地面に置く。


木が一本増えても、気付く者はいないだろう。


木の中に入ると直ぐスワロ達が迎えてくれた。


「主人よ無事か! 心配したぞ」


「ただいま、取り敢えずトイプチに着いたよ」


「おかえりなさいませ、惣一郎様」


「ああ、ただいま。ザイサイは最低な町だったぞ! 避難民が無事たどり着いても、あれじゃ無事じゃ済まなかったな」


「そうでしたか……」


惣一郎は風呂に入って少し休むといい、二階へと上がっていく。


スワロとミネアは顔を見合わせ、ミネアも家に戻って行った。


風呂に入ろうと脱衣所に行くと、賑やかな声が中から聞こえて来た。


「惣一郎様! おかえりなさいお背中流しますよ」


「流すよ!」


マチリナとマチ、エルデとハイデの4人だった。


「す、すまん! 大丈夫だ。ゆっくり入っててくれ」


慌てて出てくる惣一郎。


10代の裸を見てしまった惣一郎。


真っ赤な顔で重罪を犯した様な惣一郎は、テーブルに座ると、タイミングよくスワロがお茶を出す。


「広いのだから背中流して貰えば良かろう」


「いえ、そう言う訳には……」


お茶を飲みながらスワロにあった事を話し始める。


すると直ぐミネアも、家で焼いたお菓子を持って現れる。


素朴な味だが、お茶と合っていた。


ふたりに話しながらお茶を啜る。


「そうでしたか…… 良く聞く話ではありましたが、身近に起こり得るものだったのですね」


「余裕が無いのだな…… 何処も」


「ああ、分からなくも無いが、嫌な話だ」


「しかしまた、因縁のあの蟲を退治出来るとは、また焼き払ってやろう主人よ!」


「そうね……」


「ですが、急がなくても良いのなら、まずは街を見て回ってはどうですか? ザイサイの様な町ばかりでも無いですよきっと!」


「そうね……」


そこに風呂から出て来た薄着の4人の子供。


「勇者様〜」


「勇者!」


っと、駆け寄るエルデとハイデ。


「なに勇者って?」


「今朝話してたんです。私達を救い巨大な蟲を倒す惣一郎様は、物語に出てくる勇者様みたいだって!」


「物語?」


「はい、大昔魔女を倒したとされる勇者の話です!」


その物語を話し出すミネア。


話は前に聞いた、蟲を操る褐色の魔女と戦争していた時代の話だった。


怯えて暮らす人々が、一致団結して戦争を巻き起こすが、巨大な蟲に苦戦を強いられ、神に願ったったそうだ。


すると神が勇者を召喚し、戦争を終わらせると言う話であった。


良くあるお伽話だが、ミネアは惣一郎がそうだと幼いハイデ達に話していたそうだ。


まぁ、蟲は倒すが……


「倒した魔女を従え、この世界を救ってくれるのですよね?」


マチの言葉に過剰に反応するスワロ。


「わ、私は魔女じゃないぞ!」


「そうですよ! そうです! もっと大々的にこの話が広まれば、希望を失くした人々の心にまた余裕が生まれ、きっと住み良い世界に!」


「えっと…… ミネアさん? この話とは?」


「勇者が魔女を従え、世界を救いに現れたって事ですよ!」


「だから私は、魔女じゃないぞ!」


「俺も勇者じゃないし…… あれ? スワロは勇者として来たんじゃなかったっけ?」


「いや、聞いて無いぞそんな話。ただ世界を救えとしか……」


とぼけた顔をするスワロ。


コイツ、一度失敗したからって俺になすりつける気だな!


「ですが、世界を救いにこの世に来たのですよね! 同じ事じゃないですか!」


テンション高いなぁ…… ミネア。


「だが主人よ、一理あると思うぞ! 広く知れ渡れば動きやすくなるし情報も入りやすくなる。主人の懸念している王族の様な国も無いこの世界なら、隠すよりも良いかも知れんぞ!」


「ええ、ここでは各地と転移陣で繋がっていますし、話はすぐに知れ渡るでしょう!」


「「 勇者様〜 」」


あのなぁ……






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