二話【警備隊】
惣一郎が古屋を出ると、数十人の武器を構えるイノシシに囲まれていた。
「ドラル、これは?」
振り返るドラルが槍を向ける。
「ルルリカが襲われた話は既に入っている。近くに住むザイサイの住民も既に入り口を塞ぎ多くは避難したかもな! 街を襲う巨大な蟲だ、近くでのんびりしてるはずがないだろ?」
それもごもっともで……
「じゃ、あんたらは?」
「俺らはホラ、何か残ってる物が無いか、避難して来た連中から何か貰えないかと、待ってるのさ! 蟲が来なきゃルルリカに向かい、今度は俺たちの住処になる予定だからな」
なるほど…… 火事場泥棒みたいな感じか。
捨てられた街を建て直し、新たに住む第一陣はこんな奴らと言うことか…… 行動が早い。
慣れているんだろうな〜 こんな世界で……
「まっそんな訳で、その拾った魔石はもう、俺たちのものだ! 渡してくれるだろう?」
「蟲ならもういないぞ! ルルリカに行ったらどうだ? 蛮族ももう出ないだろうし」
「飛び立つのを見たのか?」
「いや、俺が倒した」
ドラル達が顔を見合わせて笑いだす。
「この状況で…… もっとまともな嘘をついたらどうだ? 惣一郎」
「いやほれ!」
惣一郎は倒した厄災の死骸を出し、後ろの古屋を潰す。
凍り付くイノシシ達。
巨大な蟲は切り刻まれ死んでいる。
ドラル達の頭は今まさに、高速回転の真っ最中だろう。
魔石を売りたがっていた旅人…… じゃこの蟲の? 本当に倒したのか? 道中の蛮族が出ないと言うのは……
その場にいた10人以上のイノシシ達は、信じられない思考の迷路に、持っていた武器を忘れる。
すると、厄災の死骸と同時に出した鉄球が、イノシシ達の武器を持つ手を砕き、腹へとめり込む。
ドラル以外はそのまま地面に倒れ、意識を飛ばす。
腹を押さえ、呻き声を上げるドラルに惣一郎が近付き、
「ザイサイの町には入れないって事か?」
っと、普通の会話をしだす。
「うぅ……」
やっぱ飛んで行ったほうが早かったのかな〜
惣一郎もまた、トイプチへどう行くかで悩みだす……
「な、何者なんだ!」
手足を縛られたドラルが、落ち着き惣一郎に話しかける。
惣一郎はまだ、他の獣人の手足を縛っていた。
さっきまで無かった光る左腕を出し、意識の無い仲間を縛っていく惣一郎にドラルは、蟲を倒した話ももしかしたらと信じ始めていた。
「何者って言われてもな〜 ん〜 ハンターかな? 蟲を倒す旅をしているんだ。トイプチって所の近くにも蟲がいるみたいで急いでいるんだが、邪魔されご立腹の狩人って感じかな!」
「本当にその蟲もお前が? 蛮族も倒して来たのか?」
「そう言っただろ。 よいっしょっと」
全員の自由を奪い終えた惣一郎が、理喪棍を持ちドラルに歩み寄る。
「さてと、俺を襲って魔石を奪う気だったんだよね? 避難して来る人達も同じ様に襲って殺す気だったのか?」
「い、いや、命までは奪わない!」
「素直に渡せばだろ?」
「待て待て、何処でも良くある事だろ! 捨て置かれた街をまた、多くの人が住める様にする為だ!」
本当、嫌な世界だな……
惣一郎はドラルの目の前に銀色の先の尖った棒を何本も浮かせ、杖を構える。
「待て待て! なんでもする! 金目の物も全て渡すから…… 頼む!」
「トイプチに急ぎたいんだが……」
「分かった! 俺がなんとかする!」
「どう?」
「俺たちは、ザイサイの町の転移屋から来てるんだ! 言えば町公認の警備隊みたいなもんだ!」
「続けて」
聞けば、厄災の様な被害が近隣に出ると、街の生存者が住処を求め、避難と言いながら奪いに来る事も少なく無いと言う。
なのでこのイノシシ達の様な者を町の外に出し警備と称し町を封鎖すると言う。
この世界の警備隊は、町を守る代わりに避難民を襲い、奴隷として捕まえ、襲われた街が落ち着いた頃に新たな住民として連れて行き労働力とする。
転移屋を利用出来る者は、新たな地でそれなりの対価を払い、新たに住むことが出来るが、徒歩で移動して来る者の多くは、飢えから避難先を襲う事も少なく無いそうで、こういった警備隊と言う職業が成り立つそうだ……
勿論、避難民を受け入れ、手厚く迎える警備隊もいるが、コイツらは利益重視で盗賊の様な真似もするとの事。
重い話が続く、嫌な世界だな……
生きる為とは言え、惣一郎はこの世界が本当に嫌いになりそうであった。
「だから、俺たちなら町と連絡が取れる! 蟲の脅威が去ったのなら、町の閉鎖も直ぐに解除されるだろう。その為に俺らが外にいるのだ」
「なるほど、じゃ直ぐに蟲は死んだし避難民は誰も来ないと伝えてくれ」
「誰も? 全員やられたのか、蛮族に?」
「ああ、だから俺が蛮族も倒した」
「わ、分かった。直ぐに伝えよう……」
惣一郎は宙の槍を仕舞う。
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