十九話【災害は突然に!】

ジルが話をつけに、遠くで作業中の老人に話しかけに向かう。


惣一郎とスワロは、初めて見る牛に釘付けだ。


「主人よ… 私はまだ何処かで、信じ切れていなかったのだ…… 違う世界に来たと言う事が……」


「ああ、あれ見りゃ実感湧くだろう……」


広い草原にいる、豚サイズの牛を眺め惣一郎達は今更、違う世界に居る実感を噛み締めていた。




笑顔の老人を背に、嬉しそうに走り寄るジル。


「旦那様、今年は例年より増えたそうで、心良く分けてくださるそうです!」


1匹金貨20枚で13匹ほど譲って貰い、牧場の端に出したツリーハウスの中へと次々と運んで行く。


見た目に反して大人しい牛。


村でシープに牛を引き渡すと、ゴゴ達の手を借り、奥の急拵えで作った牧場へと連れて行く。


カエルの様に跳ねながら進む牛に、驚く村人はいなかった。


当たり前なのだが……



「さて、また厄介なカウボーイに絡まれないうちに、街を出るか」


独り言の様に呟く惣一郎に、ドラミが話しかける。


「次は何処行くねん? 何処か目的でもあるんか?」


「いや、転移屋から適当に飛ぶよ。面倒に巻き込まれる前に」


首を傾げるドラミを他所に、惣一郎はスワロに後の事を任せ、ひとり街の転移屋に向かい始める。


スワロも今度は素直に村に残る。


よほどカウボーイと会いたく無いのだろう……




ツリーハウスを出て、種をポケットに入れる惣一郎は、目を丸く驚き固まる老人に挨拶し、来た道を戻り始める。


すると、さっきまで居た長閑な中心街が、多くの人で騒がしい。


やはりカウボーイがあの後、大騒ぎしているのだろうと目立たない様に、人混みの流れに逆らいながら転移屋を目指すが、どうやら騒ぎの原因は、アイツでは無い様だ。


荷物を抱えた人達が、中心街にある大きな建物から次々と出て来る。


長閑だった街の雰囲気は一変し、まるで避難民を受け入れてる様であった。


慌ただしく荷を運ぶ家族に、話しかける惣一郎。


「すまん、一体何の騒ぎなんだ?」


「[ゴスルークの街]が蟲に襲われて、避難して来たんだ! 急に凄い数で襲って来やがって、クソ! 店も何も滅茶苦茶だ」


「みんな慌てて色んな街に逃げているけど、まだ街には多くの人が残っているわ! 何もかもが急で」


「警鐘が鳴る暇もなかったんだ! 壁の中に急に現れたんだ!」


本当に避難民だった……


走り出す惣一郎。


人が溢れる建物が転移屋だろう。


押し寄せる人を掻き分けながら、惣一郎はポケットの種に説明し、準備するよう話しながら、建物へと入って行く。


緊急事態だからか、ゴスルークへの転移陣がある部屋は開きっぱなしで、すぐに分かった!


陣から次々に現れる人々と入れ替わり消える惣一郎は、あっさりとゴスルークの街に入ると、


「待て、待ってくれ!」


っと、後ろから声をかけられた気がしたが、押し戻されそうになる人の流れを掻き分けるだけで精一杯だった。


瞬間移動しながら進み、街に出ると、至る所で悲鳴と煙が上がっていた!


建物の外では、この街の傭兵だろう男達が壁を作り、赤く大きな蟻と戦いながら街の人達の避難を助けていた。


その傭兵より大きい赤い蟻。


惣一郎は先の尖った棒を出し、蟻を串刺しに地面に縫い付ける!


「ギー」っと鳴く蟻はバタバタ地面を引っ掻くが、その場を動けないでいる。


「これを使え、奴らが嫌がる毒だ! また来たら投げつけろ」


傭兵達にそう叫ぶ惣一郎は、足元に小瓶に入った殺虫剤を何個か投げ置き、瞬間移動で消える!



上空から眺める惣一郎。


遠くに大きな蟻が群がる大穴が見える!


どうやら蟻が地面の穴から、急に現れ街を襲っているのだろう。


建物の軒下に空いた大きな穴は、家を半壊させ蟻を吐き出していた。


穴から街の中心地とは反対側に降りる惣一郎が、種を近くに置くと木が現れ、スワロとドラミ、ゴゴとジジが現れる。


「ゴゴ達はコレを使ってスワロの護衛だ!」


盾にさっき買った短剣をゴゴとジジに持たせ、魔法で無防備になるスワロの護衛をする様に指示を飛ばす。


「ドラミは蟲をここに集めろ!」


頷くドラミが杖を構える。


するとすぐに、大きな蟻がワラワラと集まり出す!


惣一郎は近くの建物の屋根に乗り、片腕で杖を構え、宙に無数の槍を浮かせる!


あれ… 多くね?







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