十八話【厄介な男】
「おいおい、勇敢なお嬢さんだ!」
カウボーイハットに似た帽子のつばを撫でながら、臭いセリフを片目を閉じて喋る男。
願わくば関わりたく無い部類の男だ。
落雷を受けた男は体から煙をあげながら、フラフラと記憶が飛んだのか、ぶつぶつと何かを言いながら歩き出す。
スワロも手加減はしていた様だ。
カウボーイは店員の女性に何か言うと、道を横切りこちらに向かって来る。
惣一郎は呪文の様に「来るな来るな…」っと連呼していたが、願いは届かなかった。
「危ない所を助けてもらった様だな。ダークエルフのお嬢さん!」
眩しいのか、ゴミでも入ったのか、男はずっと片目を瞑っている。
「邪魔した様だな、つい許せなくてな」
スワロも興味を無くした様に席に座り、面倒臭い奴に関わった事をようやく理解し後悔していた。
丸いテーブルに四つの椅子が並び、惣一郎達は3人で座っていた。
一つ空いた椅子に片足を乗せ、
「邪魔だなんてとんでもない、美しい女性ならいつでも大歓迎さ!」
っと、カウボーイが帽子のつばを人差し指で持ち上げ、爽やかな笑顔を向ける。
「俺はこの街でひとり、悪と戦う[キッド]と言う者さ。勇敢なお嬢さんに一杯奢らせて欲しい」
「いや、遠慮する」
スワロの即答が聞こえていないのか、店員に指を鳴らすカウボーイのキッド。
癖っ毛の金髪に、確かに自惚れるだけはあるイケメン。
惣一郎とジルは席をスワロから少し離し、来た料理を急いで食べ始める。
スワロの薄目が刺さる……
店員もよく知っているのだろうか、当たり前の様にコップに注がれた酒をふたつ運んで来ると、了解も無く空いた席に座り、乾杯を求めるキッド。
「さぁ、ふたりの出逢いに!」
ダークエルフに物怖じしないキッドは、ガン無視のスワロにコップを傾ける。
メンタルも強そうだ……
すると、周りの客が一斉に立ち上がり、惣一郎達のテーブルから距離を取り始める。
雷に撃たれた男が、仲間を連れて戻ってきたのだ。
背中を向けるキッドは、まだ気付かないのか、スワロに向けたコップに映る自分を見ていた。
「キッド! てめ〜 性懲りも無くまたやりやがったな!」
連れてきた大男が、雷に撃たれた男に肩を貸しながら大声を上げる。
その声に振り返るキッドが答える。
「そいつがいけないのさ! 綺麗な花を無理矢理摘もうとするから」
ゾッとする惣一郎は空気になろうと必死だった。
仕返しに来た男達は4人。
すでにやられてる男を地面に座らせると、男達は武器を構える。
「今日という今日は、タダじゃ済まさねぇ!」
因縁もあるのだろう。
惣一郎はテーブルに金貨を一枚置くと、幻腕を出し、両脇のスワロとジルを掴むと、瞬間移動でその場を離れる!
転移を2度繰り返し、通りの奥の長閑な住宅街に飛んでいた。
「危ない…… 変なのに巻き込まれる所だった」
「すまん主人、つい……」
「逃げて正解です。あれは街でも有名な厄介者でして、ソロの奴隷商らしいのですが、すぐに女を口説く最低な男です。私も会うのは初めてですが……」
「ああ、まだ鳥肌が収まらん! 早く牛を買って街を出よう!」
惣一郎は雑貨屋で教わった農場へと歩き始める。
街の奥に広がる農場は広くは無いが、沢山の牛が草を食べていた。
牛と言っても惣一郎の知る牛とは違い、大き過ぎる一本の迫り上がるツノに、後ろ足がやたら大きく、草原に座る様に草を食べている。
色と体毛だけが知っている牛だった。
「牛ってあれだよな? カエルみたいに座ってる……」
「ええ、立派な牛ですね〜 ここならきっと子牛を分けてくれると思いますよ」
やっぱあれが牛なのか……
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