十五話【意外な常識】

「おはよう、スワロ」


目覚めるなり頬を赤く染めるスワロ。


大きなベッドから出る惣一郎は、片手で器用に服を着だす。


裸のスワロが慌てて、惣一郎にローブの袖を通しやすい様に後ろからかける。


「ありがと、朝飯は何が良い?」


「ん〜 蕎麦?」


意外にもスワロは蕎麦が大好きであった。


醤油だしの良い匂いがテントに広がる。


惣一郎は出来合いの天ぷらを乗せ、スワロは卵を落とし、月見で食べる。


「主人よ、今日はどうするのだ?」


「取り敢えず、ゾイドに風呂を頼んで……」


テントの生地に、数人のシルエットが見える。


惣一郎がテントから出ると、ゾイドをはじめ、工房の職人だろうドワーフが3人、鼻をクンクン鳴らしながら庭をウロウロしていた。


「おはよ、ゾイド…… 飯食うか?」


いきなり現れた惣一郎に驚くドワーフ達。


迷彩柄のテントは周りに緑があると、視認されにくい。


テントを出すところを見てない者には、惣一郎達が急に現れて見えたのだろう。


惣一郎は外にテーブルを出し、蕎麦を茹で始める。


「すまんな〜 あんまり良い匂いがするもんで、ガッハハハ〜」


惣一郎は4人のドワーフに、天ぷらと卵、ネギをたっぷり乗せた温かい蕎麦を出す。


持ち方は独特だが、ここでもやはり箸を器用に使う。


「美味いなこりゃ! 芯から温まるぞ」


「なぁゾイド、昨日言ってた風呂なんだが、材料支給で頼めるか?」


「なんじゃ、木材ならウチにもあるぞ?」


惣一郎はネットで買った[ヒノキ]を取り出して見せる。


「ほぉ〜 良い香りの木じゃな」


「ああ、湯を張るともっと良い香りになるんだ」


「なるほどの〜 ええじゃろ、これで作っちゃろ! 大きさは?」


惣一郎は昨夜簡単に描いた図面を見せると、


「お前さんこりゃ排水が無いが、ええんか?」


「ああ、良いんだ。その大きさで頼むよ…… っとその前に! 幾らぐらいだ?」


『ドワーフには先に見積もりを!』っを思い出す。


「ガッハハハ、そうじゃの材料支給じゃ、金貨10枚でええじゃろ! 陣職人とは来てから交渉せい! まぁ相場は40枚そこらだな」


「ああ、助かる!」


陣職人か…… 面白い商売だ。


聞けばマジックバッグも、陣職人による物らしいのだが、空間魔法の陣を描ける職人がほとんど居らず、希少価値が高いらしい。


珍しい所ではクリーンの陣などがあり、シャワー室の様な使い方で、個室に陣を描き魔力を流すだけで惣一郎のクリーンの様な効果があるそうだ。


だがこれも、相当希少で高い。


定番なのが今回頼んだ温める陣や、火が点く陣らしい。


鍋の底に描いたり、キッチンに描いてコンロの様に使うそうだ。


他にも水を出す蛇口や、風を作る送風機など多岐にわたって得意とする陣職人が人々の生活を支えているそうだ。


惣一郎達は材料のヒノキを庭に重ねると、製作をゾイドに頼み、町へ買い物に出かける。




朝から賑わう町ではドワーフ達が、行き交う旅人だろう色んな種族の人に、自分達の商品を勧めていた。


主に、陣が施された武具が目立つ。


この世界にダンジョンはあるのだろうか?


ドワーフ達の魔導具を見て、ふと思う惣一郎。


スワロに聞いたが、スワロも分からないらしい。


そしてお目当ての……


「魔導書店ね〜じゃん! 何処にも無いじゃん! みんなどうしてんだコレ!」


「魔導書店を探してたのか? 主人は」


「ああ、みんな魔法どうしてんだ?」


「いや、もう知ってるのかと……」


「どう言う意味?」


「無いぞ、魔法」


「はい? いやいや杖、杖持ってるじゃん! アイツも、アイツも、あの子も、みんな!」


「あれは杖に陣が描かれていて、魔力を効率よく送る為なのだ! この世界では、攻撃魔法もみんな武具に描かれた陣から出すのだ…… だからあんな木の杖でも十分らしい」


「え〜 何それ〜 じゃもう新しい魔法覚えらんないじゃん!」


「えっ、ああ、陣の描かれた武器を持てば良いのでは?」


ん〜 なんか違う!


不満ダラダラの惣一郎は、取り敢えず武器屋を見に行こうと言うスワロの提案に、渋々ついて行く……






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