十四話【旅の第一歩】
転移屋を探す白いローブ姿の惣一郎とスワロ。
惣一郎は町行く人達の服装が気になり出す。
「白はいないが、結構色んな服を着てるんだな」
「ああ、種族も多いのでな、正直服なんて誰も気にしてはいないだろう」
「そうなのか?」
するとスワロが、転移屋を見つけて指差す。
「私も初めてだが、町ごとに大体2〜3箇所の転移先を選べるらしいぞ」
なるほどね〜
店内はカウンターと左右にドアがある簡易な作りであった。
「いらっさい、初めてっすか?」
額にツノの様なコブがある人族っぽい店主。
「ああ、初めてだ」
「ウチからは北の[ゴーシュの町]か、西の[ケネブルの町]へ飛べます。どっちもお一人金貨20枚っす」
なるほど、こんな感じなのね……
「スワロ、どっちが良い?」
悩むスワロは、
「店主、西とは[ゾルダン大陸]の方なのだろうか? 出来れば海を渡りたい」
「そっすね〜 大陸を渡るだけなら北のゴーシュの方が近いっすね〜 3つ先に北の[マイオス大陸]があるっす」
「では、北が良いと思うぞ、我が主人よ」
「ああ、任せる!」
金を払い左のドアから中へ入ると、魔法陣が描かれた室内の隅に、椅子に座る猫がいた。
オババ?
「オヤ、ゴーシュへご移動ですね! どうぞ陣の中へ!」
二足歩行のベストだけを羽織る猫が、惣一郎達が陣に入るのを確認すると、
「では、毎度あり〜」
っと、杖を振る。
一瞬光る魔法陣に目を細めると、似た様な部屋に杖を持つ似た様な猫がいた。
「いらっしゃい、ゴーシュの町だよ!」
確かにベストの柄が違う……
狐につままれた様な気がする惣一郎が部屋を出ると、大きなロビーにドアが並ぶ派手な店構えに変わっていた。
カウンターでは忙しなく、受付に追われる人が数人おり、並ぶドアから時折出たり入ったりと荷物を背負った人が行き交う。
あらやだ、ファンタジーじゃん!
呆気に取られるふたりを、出て来たばかりで誰も居ないはずのドアから荷物を背負った男が「邪魔だ!」っと、背中を押してくる。
良いね異世界!
物珍しそうに見渡し、店を出るおのぼりさん。
外は三階層の大きなドーム型の地下だった。
段々と下に行くにつれ、家が増えて行く岩肌の洞窟。
ライトの魔法だろうか?
至る所で明るく光源が、町を照らしていた。
「大きい町だな、主人よ」
スワロも目を輝かせ、町を見下ろしていた。
すると、惣一郎の目の前を通り過ぎるドワーフ。
「ここなら風呂が作れるかもな! ちょっと見て回るか」
「ああ、急ぐ旅でもないしな」
テンション高く町を歩き始める、お揃いの白いローブのふたり。
二階層に降りると酒場が並び、道にはみ出しテーブルで酒を飲むドワーフが目立つ。
美味そうな骨付き肉を片手に、樽の様なコップで酒を飲むその姿は、正にドワーフそのものであった。
賑やかに並ぶ店先を歩きながら「何か食ってくか」っと提案する惣一郎。
言った側から声を掛けて来るドワーフ。
「おい旅人か? 飲んでけ! 話を聞かせろ」
出来上がっているのか、見た目怪しいふたりを、真っ赤な鼻で席を勧めるドワーフ。
「じゃ、お言葉に甘えて!」
話を聞かせろと言う割に、自分の話しかしないドワーフの[ゾイド]と寡黙な[ギザブル]のふたり。
ぬるいエールを飲みながら、漫画の様な肉を頬張る惣一郎。
スワロもほろ酔い気分でニコニコと、酒を飲んでいた。
「なんじゃ桶を作りたいのか? それなら俺が作ってやろう!」
話が早い!
「因みに、湯を沸かす魔導具みたいな物ってあるんですか?」
「なんじゃ風呂か! 桶と言うから、風呂なら風呂と言え! 魔法陣を風呂底に描いて貰えば、ずっと温かいままじゃ」
「ほほぉ〜 魔法陣ですか……」
「それも陣職人に依頼しといてやる。だから今日は飲め! ガッハハハ〜」
ドワーフは何処も変わらない様だな!
惣一郎は途中途中でキュアを掛けながらドワーフの酒に付き合う。
「ウチの…主人様はねぇ…ヒック! おっかしいんですよ! ねぇヒック! この私が隣で、隣で寝てるんですよ〜 ヒック! バッチコイですよ! ヒック! なのに、この男は……ヒック! ぜ〜んぜん、指一本も触れて来ないんですよ!」
そろそろ止めるべきだろうか……
面白いのでスワロには、キュアを掛けていなかった惣一郎。
キュア!
はっ!と、赤面する褐色の顔。
面白い……
結局遅くまで飲んだ惣一郎が払いを済ますと、お礼だとゾイドの家に泊めてくれる事になった。
ゾイドの家は工房になっており、運が良い事に中庭のある広い家だった。
「ああん、部屋ならあるぞ?」
「いえ、庭を借りれればテントがありまして」
惣一郎は庭に大きなテントを出して見せる。
「こりゃ、たまげたわい…… 収納スキルか!」
「ええ、なので場所だけ貸して頂ければ」
「あっ、ああ、好きに使うとええ…… わしゃ酔いが醒めたので飲み直す!」
おやすみを伝えテントに入る惣一郎。
スワロの顔はまだ赤かった……
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