十九話【限界を超えて】

次々と生まれ出る蟲を倒して行く、惣一郎達。


巨大なクロカタゾウムシを、大きな戦斧で両断する鬼人弁慶。


赤く染まるしなやかな筋肉で、大きな戦斧を自在に操り、左手で掴むムカデの頭を軽々と引きちぎる。


ジビカガイライの重戦車。


どんな戦闘でも必ず惣一郎の前に立つ彼女に、いつも心強い気持ちになる。


ありがとう弁慶……


「旦那様! 素早いのが来たぞ!」


広場に大きな影を落とす巨大なトンボ、オニヤンマ!


惣一郎が何枚もの盾を宙に浮かせると、軽やかに踏んで空の王者の首を斬る銀髪の乙女!


白いローブをなびかせ、両手に小刀を握る分厚い眼鏡のベンゾウ。


惣一郎の最初の仲間であり、何度このベンゾウに命を救われた事か……


視力を失うも、鮮明に目に浮かぶ少女だった頃のベンゾウ。


地下の牢屋で腐っていた汚い少女。


雨具にはしゃぎ、跳ね回る少女。


膨れた腹を出し、無防備に寝る少女。


夜の海岸で裸で舞う少女。


サーチで読み取れる大人になったベンゾウは、惣一郎との共闘に楽しそうに踊る。


ベンゾウ…… お前に会えて本当に良かった……


ありがとう……




惣一郎の鉄球がゴライアスオオツノハナムグリの硬い外殻を砕くと、その鉄球を素手で掴み、さらに奥へとめり込ませる弁慶!


銀の閃光が走ると、サカダチコノハナナフシを二つにし、惣一郎の盾を足場に閃光が数匹の蟲の合間を縫う様に線を繋ぐ!


倒した蟲を収納しながら惣一郎は、オレンジに光る円盤を自在に操り、ジャイアントウェタの大きな脚を斬り落とし自由を奪う。


大きなコオロギの背中に刺さる無数の金属の槍に、スワロの落雷が落ちる!


精霊達が次々と、魔女の体から力を抜き出す。


騎士達が惣一郎達の戦いを、その目に焼き付ける。


蟲一匹で街がなくなる脅威を、惣一郎達が危なげなく倒して行く。


次元を超えた戦いに、離れて見ている村人達が、驚き言葉を失い、呼吸をも忘れる……


弁慶が暴れる。


ベンゾウが走る。


惣一郎がふたりを繋ぐ。


ミコも、ガオも、ツナマヨも、ピノも、スワロでさえも次第に、楽しそうに戦う3人について行けず、足を、手を止める。


「ハァハァまったく、楽しそうに戦いおって」


肩を揺らすツナマヨが、刀を仕舞う。


叩き、斬り、潰し、牽制し、3人の息のあった戦いは、誰も邪魔が出来る物ではなかった……





「最後や!」


ドラミが叫ぶと御神体から、ぶよぶよの体に8本足の巨大なクマムシが現れる。


脂肪の塊の様な弛んだ体に、筒状の牙が並ぶ口だけが見える顔。


蟲と呼べるか疑問は残るが、間違いなく魔女が不死身の原因である事は間違いない。


8本の足から伸びる鋭い爪で、のそのそと歩き出すクマムシ。


弁慶が縦に戦斧を振り下ろすと肉が裂け、水の様な体液をこぼす!


ベンゾウも小刀で切り刻んでいくが、気にせず歩き続けるクマムシ。


斬られた箇所が回復していく……


惣一郎が円盤を投げ込み、クマムシの肉の中で暴れると脚を止める!


弁慶も構わず戦斧を振り下ろし、ベンゾウもクマムシの回復より早く、切り刻んでいく。


極限の環境にも耐え、無敵と呼ばれるクマムシ。


だが死なない訳ではない!


潰せば簡単に死ぬとも、ネットで買った本に書いてあった。


この巨大な肉の塊を……



惣一郎は鉄球を出し、空に上げる。


無数の鉄球が雨の様に降り注ぎ、クマムシの肉を潰していく!


惣一郎のその攻撃に合わせ、退がる弁慶とベンゾウ。


鉄球を追加し続け、休みなく撃ち続ける!


撃ち漏らした鉄球が地面を硬く押し潰し、また舞い上がり撃ち下ろされる。


惣一郎の魔力が目に見えて、減っていくのが分かる。


地響きに似た打撃音がしばらく続き、クマムシはやがて、原型も分からないほど潰され地面に凹みを作っていく。


鉄球の雨は徐々に止んでいき、惣一郎の視界も暗くなって行く。


俺を呼ぶ声が聞こえる……


だが意識が……


魔力を限界まで使い果たした惣一郎が、静かに倒れ、眠りにつく……






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