十八話【決闘】

階段を降りて行くと前に広い空間が見えて来て、惣一郎が片手を広げみんなの足を止める。


下に広がる大空洞。


赤い岩肌を照らすライトの光が、奥まで届かない程の広さだった。


「主人よ」


スワロが指差す方には、大きな蟲の残骸が落ちている。


何かの実験場に思える空間に出た惣一郎達。


横に岩を削り下まで続く階段も見える。


以前見た、地下に作られた街程の広さであった。


「降りて来い! 勇者よ」


大空洞に響く声を探す弁慶達。


惣一郎とスワロ、ベンゾウの3人は、その広い空間の中心を見ていた。


「やっぱ生きてたか、ゲルドマ」


蟲の残骸に紛れるように、広場の中心に立つゲルドマ。


弁慶に砕かれたはずの腕が、黒々と以前より大きく太く、下半身は四本脚で立つ蟲その物であった。


上半身と顔だけがダークエルフだった褐色の肌で、人であった名残を見せる。


ベンゾウとスワロがその上空をホバリングするトンボの羽と顔、下半身から伸びる蟲の腹部の元傭兵だった3人を見ていた。


「蟲のくせに、再生すんじゃねぇよ」


ボソッと届かないだろう声でぼやく惣一郎。


返事のタイミングは聞こえたのかも知れない。


「そこの女! 一対一の決闘を申し込む!」


ゲルドマの視線が届かない距離にも関わらず、みんなが何故か、弁慶を見る。


ゲルドマの声だけ響く洞窟。


羽音も聞こえず飛び続けるギンヤンマの傭兵。


惣一郎は侵入がバレ、待ち伏せされた事に周りを警戒していたが、目の前の4匹以外の反応は無かった。


侃護斧を肩に担ぎ、前に出ようとする弁慶を止める惣一郎。


「この散らばる蟲の残骸は、お前らが喰ったのか?」


サーチを飛ばし探る惣一郎。


「ここはロンシール様の実験場だ。蟲同士戦わせる。これはその残骸だ」


「ロンシール? 実験?」


「我々も目的は知らん! ここは蟲を次々と送り込み戦わせる為の空間だ。時折この大陸の岩に行き場を失う蟲の魔力が黒い渦を作り、その穴に蟲が消える現象の実験を繰り返していた」


「はぁ? 次元を開いていたのか!」


「じげん? 知らん、答えたぞ! その女と戦わせろ」


衝撃を受ける惣一郎。


まさか、自然に開いた次元を越え、蟲が異世界に来ていたのでは無かったのか?


故意に蟲を送り込んでいた?


そんな惣一郎の肩を優しく掴む弁慶が、


「旦那様、やっていいか?」


っと、前に出る。


「えっ? あ、ああ」


すると階段を降りず、結構な高さから飛び降りる弁慶!


ドスン!っと響く衝撃音。


足元にヒビを作り、しれっと起き上がる弁慶が赤くツノを伸ばす。


アホ!っと、慌てて階段を追いかける惣一郎達。




「貴様…… 名乗れ! 我はゲルドマ。パテマ傭兵組合、団長のゲルドマだ!」


艶のある黒い瓢箪の様な腕に握られた、大きな戦斧を前にブンっと構えるゲルドマ。


離れた赤い弁慶の白い髪が、風圧で揺れる。


「弁慶! 冒険者ジビカガイライの副団長を務める鬼人、黒鉄の弁慶だ!」


歩きながら筋肉が盛り上がり、身体の周りの空間を歪め、片手で侃護斧を振り回すとピタッとゲルドマに向け構える!


戦斧よりも小さく短剣ほどの黒い塊が、離れたゲルドマの髪を揺らす。




階段を降りる惣一郎が駆け寄ると、先に飛び降りたベンゾウが惣一郎を止める。


上空の3匹が槍と剣を構え、決闘に邪魔が入らない様にと睨み付ける!


そのトンボの複眼に、無数の自分が映る。






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