十九話【想い武器】
3匹のギンヤンマ男と睨み合う、惣一郎とベンゾウ。
スワロが弁慶のしなりゆく筋肉に目を奪われる。
ツナマヨだけが平然と腰の日本刀に腕を置き、成り行きを見ていた。
侃護斧をサイドスローで投げそうな程、握る右腕を後ろに伸ばし大股を開いた姿勢で、足から腰へと赤い筋肉がしなる弁慶。
ゲルドマも、巨大な戦斧を前より太い腕から生える鉤爪で掴み、右斜め上に振り上げる。
鈍い色の両刃だが片刃が異様にでかい斧は、所々金色の装飾が光り、全体を魔力が包み視界を歪ませる。
戦斧も前回とは違う様だ。
「武器も前回とは違う様だな!」
口元が緩む弁慶が、なぜか嬉しそうに尋ねる。
「ああ、太古の遺跡から発掘した勇者が使ったとされる[グラドゥの戦斧]だ。使用者の魔力を喰い硬くなる生きた斧! 前回の様にはいかんぞ!」
ゲルドマの下半身から生えた4本の蟲の脚が地面を掴み、黒い両腕にさらに力が入る。
「アタイの得物も勇者である旦那様がくれた物だ! 侃護斧より硬い物はない!」
ギュギュっと悲鳴が聞こえそうな筋肉を、さらに太く大きくする弁慶。
笑みを浮かべ睨み合う両者……
次の瞬間!
振りかぶった侃護斧が残像を残し、弧を描く線が赤く光ると、弁慶の上半身も目の錯覚か、一瞬消える!
同じタイミングで振り下ろされたゲルドマの戦斧グラドゥも、銀色の弧を描き、侃護斧の軌道と交わる!
ベンゾウと共有する惣一郎の目にも動きは見えた!
交わった接点から互いにズレた軌道に乗り、伸び切る両者の腕。
衝撃が遅れてやって来るが、風が接点へと集まる様に逆に吹く!
ゲルドマの戦斧は弁慶の右側の地面に刺さり、掴んでいた両腕が折れ、ゲルドマの手から離れ鈍く光っていた。
振り上げ伸び切った、弁慶のしなやかな赤い筋肉が握る侃護斧は、無惨にも根元から折れ、弁慶の悔しそうな目が止まる時間の中で、掲げられた右手の中の侃護斧に注がれていた。
ドスン!っと、ゲルドマの背後に落ちる変わり果てた侃護斧の欠片。
ゲルドマも動かない。
両腕が折れ、すでに動けないのだ。
そこに戦いを見ていたツナマヨが、大声を上げる!
「弁慶! 介錯だ!」
ハッ!っと我に帰る弁慶!
ゲルドマはツナマヨの声に満足そうに微笑み、目を閉じる!
悔しさ残る弁慶の右腕が、地面に刺さったゲルドマの戦斧を掴み、そのまま右に大きな弧を描く様に回ると、ピタっと振り抜いた戦斧を止める!
「お見事……」
右脇腹から左肩に線が入るゲルドマが、ゆっくりと体から二つにズレ落ちる。
徐々に体が萎む様に、肌色に小さくなる弁慶。
戦斧を握りしめ、落ちた侃護斧を見つめていた。
悲しそうな大きな背中に、惣一郎の足が一歩近付くと、上空のギンヤンマ達が一斉に襲いかかって来る!
気にせず進む惣一郎。
その左側に光剣が刺さる傭兵が落ち、いつの間にか前にいるツナマヨが刀を鞘に仕舞うと、三つに分かれた傭兵がバラバラに落ちる。
ベンゾウが残りのギンヤンマの背中に乗り、2本の小刀を背中に突き刺し、そのまま地面に滑り落ちると、惣一郎が思い出した様に立ち止まる。
「危な!」
足元に滑り込むトンボに乗るベンゾウが見上げる。
「油断し過ぎでしょ! ご主人様」
「す、すまん……」
その向こうでは弁慶が、背中で泣いていた……
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