六話【勇者降臨】
スプレー缶を片手に、どんどん進んで行く惣一郎とスワロ。
1m程の大きなスズメバチは攻撃的にふたりに近づくも、次々と倒されていく。
惣一郎のアイテムボックスにもすでに、結構な数が入っていた。
「主人よ! 巣は残しておこう」
「えっ、倒さないの?」
「ああ、こちらに向かって来る大型の厄災の足止めにも、多少必要だからな!」
惣一郎はサーチで残りを確認する。
「半数以上は倒したみたいだが……」
「十分だろう!」
ホントかよ……
惣一郎はポケットから種を取り出し話しかける。
「ドリー、大型の蟲はあとどのぐらいで着きそうだ?」
「ふむ、あと一刻もすればここに現れるじゃろ」
っと、ポケットの種が答える。
「じゃ戻るか」
「主人よ、帰りは歩いて帰ろう! 残りを引き連れて行くのだ」
「街に誘導するのか?」
「ああ、大型の厄災が街を襲わないと意味が無いからな!」
なんか悪役っぽいんですが……
腑に落ちない惣一郎はスワロに言われるがまま、指示に従い、街へ戻り始める……
蜂を引き連れ転移を繰り返し、しばらく進むと、後を追いかけて来ていた蜂が進行を止める。
この辺りが蜂の行動範囲の限界なのだろう。
少し戻りスプレーを吹きつけ倒して行く。
帰りは蜂の死骸も回収していなかったので、点々と奥に続いている。
すると遠くから、大きな音が聞こえて来る。
「どうやら来た様だな!」
「残りの蜂に倒されたら元も子もなくないか?」
「蜂を狙って襲って来る厄災だ、簡単にはやられないだろう! さぁ主人よ、街に戻って準備だ!」
コイツ、ノリノリだな……
街では、大きな音を聞いて騒ぎ始めていた。
「今の音はなんだ!」
「大型の蟲が森で暴れている様だ!」
「確認を急げ!」
しばらくすると街に、危険を報せる鐘が鳴り響き始める。
「蟲だ! 大型の蟲がここに向かって来るぞ!」
街はあっという間に大騒ぎになり、荷物を抱え逃げ出す人が転移屋へと押し寄せていた。
「なにをしてる、進まないぞ!」
「ドアが開かないらしいんだ!」
パニックに怒号が飛び交い、大騒ぎになる転移屋へ、次々と人が集まりだす。
数人がドアを破壊しようと斧を叩き付けるが、ドアはびくともしない。
怒号に混じり悲痛な叫びや泣き声を、警鐘がかき消す。
「ダメだ! 森に逃げるしか無い!」
「もう終わりだ!」
「転移屋! 何の為に今まで街に金を払って来たと思ってるんだ!」
「傭兵団が先導するそうだ、森へ逃げるぞ!」
「ああ、ルルリカの勇者の話が本当なら……」
「ルルリカ街も今は瓦礫の山だ!」
「いえ、今度はきっと間に合うはず! 我々を救いに勇者様が!」
「そんな噂、当てになるか!」
親とはぐれ泣き叫ぶ子供。
慌てて崩れた荷を他人のせいにして喧嘩を始める人。
諦め、手を合わせて祈る人。
傭兵団の後を、森に逃げようと付いていく人。
すると、パニックになった街に鳴り響く鐘の音が、大きな音でかき消される。
ドガガガ……
街の人達の誰もが、その大きな音がした方を見て、言葉を失う。
大きな丸太で出来た壁が崩れ、森の奥に木を薙ぎ倒し向かって来る巨大な蟲が見えたのだ。
何故頑丈な外壁が崩れたのかなんて考える者はいなかった。
誰もが遠くの巨大な蟲の姿に、絶望しか頭に無かった……
鐘を鳴らしていた者の手も止まり、絶望の静けさが街を包む……
「終わりだ……」
街の皆んなの心の声を、誰かが代表して発した言葉が聞こえた時、崩れた壁に現れた白いローブの男。
街を背に、蟲に立ち向かおうとしてる様に見える男の顔は、赤かった。
長い銀の棒を持つ片腕の男が、右手の棒を振ると魔法陣が現れ、片膝を突いた白いローブの女が現れる。
女はフードをめくり片膝を突いたまま、男に頭を下げる。
「ダークエルフ…… 魔女だ!」
「じゃ、あれが勇者様なのか!」
街の人に紛れたミネアが声を上げる。
「あれは、ルルリカの蟲を倒した勇者[ノイトアラン]様よ!」
惣一郎の顔は一段と赤くなり、スワロを睨み付ける。
覚えてろよ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます