十五話【謎の儀式】
「なぁハク。俺、魔法陣が出せないんだが、魔族なら何か方法とか分からないか?」
「魔法陣が出せない?」
白髪をくるくる指で巻きながら、細い目で考え込むハク。
「陣も無しに魔法が発動する事は無いはずなんですが…… スキルじゃ無くて魔法なんですよね?」
「ああ、魔力を使う魔法で間違いないんだが」
会議は言いたい事を話し合う中、徐々に収拾がつかないものへと進み、みんな好き勝手に話し合っている。
惣一郎も自分の事をハクに相談し始めていた。
ジジは傭兵団じゃ無く、騎士を名乗りたいと言い出し、シープは牛の数と場所をジルと揉め出す。
スワロはドラミと夜の事で揉め出し、ギネアは黙ってキューテッドを睨む。
コンとチンは勝手に酒を飲み出し、オドオドするミネア。
そんな中、ハクが魔法を見せて貰いたいと惣一郎を外に連れ出す。
いつの間にか中庭は暗く、夜を迎えていた。
食堂で食事をとっている村人に、まだ終わらなそうと身振りで伝え、惣一郎はハクと広い場所に出る。
「じゃ、瞬間移動をするぞ!」
「は、はい」
ハクの前に移動しようと構える惣一郎。
空が一瞬ぼんやりと、明るくなった様に思えた。
はっ!っと気付くハク。
「勇者様、もっと簡単な魔法は?」
「えっ? 簡単な…… じゃコールを送るよ」
片手で杖を構え、ハクにコールを送ろうとする。
「はっ…… あははは……」
呆れた様に笑い出すハクに、惣一郎が「なんか分かったのか?」っと睨む。
「勇者様…… 流石は勇者ですね……」
ん?
「陣は魔法を形成する物で、描かれる事で魔力を魔法へと変換して行く設計図です…… 勇者様はその魔力が大きすぎるので、陣が巨大な物になるのですよ」
はっ!っと気付いた惣一郎が、空へと飛び上がり、高くまで飛んで上がると、点になったハクの元にコールを飛ばそうとする。
ハクを中心に巨大な魔法陣が、中庭に収まり切らない大きさにまで、広がっていた!
ハクの前に瞬間移動で戻る惣一郎。
呆れ顔のハクに、惣一郎も、
「ははは、そう言う事だったのね……」
っと、苦笑いで答える。
陣がデカ過ぎて、足元に見えないだけであった。
まして昼間では認識は難しいだろう。
「陣の大きさは魔力の大きさで決まります。消費魔力では無く、個人の魔力量そのものが陣の大きさに反映されているので、勇者である旦那様の魔力では、空高く上らないと全体像は認識出来ないかと……」
あははは…… はぁ〜
惣一郎は会議室でオドオドしているミネアを連れ出し、ツリーハウスから外に出る。
「どうされたのですか! 勇者様」
「今から陣を出すから、上から見てて欲しいんだ!」
惣一郎はネットで購入したアルミの小型ボートにミネアを乗せると、魔石のカケラをはめ込んだ銀の小さなネックレスを首にかけ、暗い夜の空へと浮かせる。
きゃーーーーー!
『ミネア! 聞こえるか? 上から下を見るんだ!』
頭に響く声に驚くミネアが、恐る恐る下を見ると、森に大きく広がる魔法陣が目に飛び込む!
それでも全体像を見るには、もっと上空に登らないと見えない大きさであった。
ゆっくりと降りてくるミネアは、ボートの中で腰を抜かし、恥ずかしそうに顔を手で隠していた。
「見えたか?」
「………」
漏らしていた……
クリーンをかけ、謝りまくる惣一郎。
真っ赤な顔で惣一郎の胸を何度も叩く、恥ずかしそうなミネア。
「ごめんよ、でも見えただろ? 魔法陣」
「確かに見えましたけど…… 全体を見るには、高さが足りません」
「もっと上げないと無理か?」
「怖くて無理です!!」
それからミネアが陣を覚えるまで、空に浮かせる儀式が夜な夜なおこなわれる事に……
コールの陣はミネアにとって然程難しい物では無かったが、それ以外は全て覚え描く事は出来ないと言う。
特に瞬間移動の魔法は今まで見た事も無い程、複雑で細かく、神秘的な物だと驚くミネアだった。
数日かければコールの陣も覚えられると言うので、ギネア達の出発もそれに合わせる事にする。
「でも、魔力量で陣の大きさが決まるなら、俺の魔力を使ってるスワロの陣は、なんで普通なんだ?」
「さぁ、こんな大きな陣を見たのは初めてでして…… そう言われてるってだけで、実際には違うのかも知れません」
奴隷契約で惣一郎の魔力を使えるのも、スワロだけだし、確かにまだ謎が多いな……
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