十七話【魔女狩り始めました】

エノルガス大陸。


人が住める環境ではなく、蟲の出現率も多い事から、歴史から捨て置かれた北の大陸。


転移屋は勿論、町も存在しないそうだが訪れる者がいない為、定かではない。


「大昔は罪人などが、流刑として送られたと聞いた事がありますが……」


ミネアが暗い顔で説明する。


そこにギネア達が戻ってくる。


ジャニーとデイジーも一緒だが、縄で縛られた知らない男もいた。


「惣一郎様、魔女崇拝の者を1人捕らえて参りました」


汚名返上とばかりに、張り切ったのだろう。


トカゲの癖に犬の様に尻尾を振っている。


縛られた司祭服の男は、褐色の肌に長く尖った耳をして、酷く怯えていた。


「離れろ!」


突然大声を出し、幻腕と槍を出す惣一郎!


「ベンゾウ!」


「大丈夫! 匂いしないよ」


ホッとして座り込む、惣一郎。


ベンゾウも構えていた小刀を仕舞う。


何があったのか理解出来ず、固まるギネア達に、惣一郎が説明を始める……




「上位種? ちょっと待ってください、蟲が人のフリをしているのですか?」


「魔女崇拝者が蟲?」


「いや、混乱するのも分かるけど、前にも見た事があるんだよ、人の身で蟲を食べ続けると、蟲の様な姿になるんだ。強さも上位種並に……」


「あんなもん喰う奴がおるんか!」


まぁ、驚くのも無理はない……


「それはそうと、キューテッド達は?」


「居ないのですか?」


「あっ! バタバタしてて伝えるのを忘れてました!」


「ま、まぁ、取り敢えずそいつは牢に入れて監視する様に、すまんがタイガ、キューテッド達を迎えに行ってくれ。みんな集まったら詳しく話す、夜にはゴゴ達も一旦戻るだろう」


取り敢えず惣一郎との繋がりが切れても、奴隷契約が生きてれば、スワロは無事だ。


情報を集め、今度はこっちから魔女崇拝者を…… いや、魔女狩りを始めよう!





そしてその日の夜。


会議室ではなく、中庭で村民全員参加の会議が行われる。


今後についてみんなの意見を聞きたいからだ。


目的地がエノルガス大陸って事もあるし……


だがその前に!


村人が中庭を囲み、その前に騎士達が武器を持ち円を作る。


中心には惣一郎と、捕らえた司祭服の男。


会議の前に公開尋問が始まる。


「お前らの目的は?」


周りを囲まれ、恐怖に顔が青ざめる男。


「め、女神の… 魔女様の復活……」


「復活すれば今以上に、蟲に苦しむんだぞ?」


「ど、どうせ腐った世だ……」


「仲間は、全部で何人ぐらいいるんだ?」


「知らん、ほ、ほんとだ!」


震え怯える司祭の男。


「こいつも仲間だろ?」


惣一郎は収納してた蟲女の首と体を出す。


蟲が混ざる異様な遺体に、ざわつく中庭。


「なっ! こ、これは…[エルス]なのか…… お前がやったのか?」


「ああ、襲って来たからな」


「よくも、こんな姿に……」


「えっ、違う! 倒しはしたが、蟲に変身したのはコイツが勝手に!」


「そんなバカな! 蟲に変身する訳が無いだろ」


あれ? 知らないのか?


そう言えば、仲間が何も知らずに…みたいな事言ってたが……


「スワロは、攫った仲間はどこだ」


「…………」


「あら、言わないつもり?」


「…………」


ドラゴンが鎌を両手に近付く。


「フフフッ」


惣一郎が片腕を広げ、ドラゴンを止める。


「フッハハハー やはり契約が切れぬと思えば、生きておったか!」


司祭服の男の目は昼間見た、あの気持ち悪い目だった!


「なっ! みんな下がれ!」


「えっ、急に匂いが……」


「なんや急に声色変えて!」


膝を突き、縄で縛られた男が辺りを見渡すと、女の声で、


「良いところに住んでおるのぉ、勇者よ」


っと微笑み、惣一郎を赤い目で見る!


「お前…… こいつにも寄生してたのか!」


「我は何処にでもおるぞ、アッハハハ!」


武器を慌てて構える騎士達とベンゾウ!


空には無数の槍が、逃げ場を塞ぐ!


「中々勇ましい仲間がおるではないか」


「離れろ!」


叫ぶ惣一郎!


だが、いきなりの状況に混乱する騎士達の行動が遅れる!


縄を内側から破る蟲の腕が、近くのドラゴンに伸びると、鎌での防御が遅れ顔を掴まれる!


そのまま背後に回り込む、蟲の姿が混ざる司祭。


ベンゾウが小刀を走らせ、ドラゴンから引き離すが、ドラゴンは首の後ろを手で押さえ倒れ込む!


離れた司祭に雨の様に降り注ぐ槍!


司祭も最初は躱していたが降る槍の数が多く、次第に刺さり出し動きを止める!


「ドラゴン!」


慌てて近付く惣一郎に、ドラゴンの鎌が数ミリ前を切る!


ドラゴンの目が赤く、緑のリングが脈を打つ!


嘘だろ……


ゴゴが「血迷ったか!」っと盾を構え、援護に入ろうとするのを、惣一郎が大声で止める!


「近付くな!」


「ほう、流石に仲間は斬れぬか!」


ドラゴンが女の声で、後ろで小刀を構え戸惑うベンゾウに語り掛ける。


クソッ!


爬虫類顔のドラゴンは表情も無く、目だけが激しく脈を打つ。


すると串刺しになりながらも、踠く司祭が女の声で「ええい抵抗するな!」っと訳の分からない言葉を残し、動きを止める。


乗り移られたドラゴン様子がおかしい……


「だ…んな…さま…… 今です… 殺してくだ…さい……」


小刻みに震えるドラゴンが、普段の声を出す!


動きを抑えているのか!


脇腹が盛り上がり皮膚を破り、蟲の腕が生えてくるドラゴン!


「はや…く!」


惣一郎は泣きそうな表情で、槍をドラゴンに突き刺す!


「やりおる……」


女の声を最後にドラゴンが、息を引き取る。


泣くな、まだだ!


惣一郎はドラゴンの遺体を収納すると、やはり、透明な長細い眼球の様な袋が2つ地面に残る。


中の卵は生きている……


司祭の遺体も同様だった。


惣一郎は混合ガソリンをかけ、火を点ける。



離れた村人もゆっくりと戻って来て、火を眺める。




そう言う事か……


種を植え付け寄生する魔女。


誰にでもなれ、いつでも成り代われるどころか、何人にも同時になれる……


成り変わるまでベンゾウの鼻でも分からない。


そしてドラゴンが犠牲に……


俺の責任だ……







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