十六話【スワロを探せ!】

「ごふぃじんざま〜 おれじゃおはんがおいしくいふぁふぁけないよ〜」


注)ご主人様〜 コレじゃご飯が美味しくいただけないよ〜


アホに貴重な回復薬を使う惣一郎が、地面に開いた大きな穴の前で説教をする。


「お前な〜 スワロが攫われたこの状況で、もう少し慎重に……」


「フフフッ」


「なんだよ」


「ご主人様、コレ!」


ベンゾウが左手首のレーテウルをチラつかせる。


「ベンゾウ思い付いたの! 次元開こう」


次元?……… あっ!


やだこの子、天才!


確かに次元を開けば、ツリーハウスの中に居ようと別の世界に居ようと別次元には違いない!


「そうか、ベンゾウを向こうから連れてきたみたいに、スワロを探せば! かぁ〜、なんでこんな事に気付かなかったんだ! ベンゾウでも思い付くのに」


「ご主人様、それ失礼!」


「こりゃ失礼、すぐに村に戻るぞ!」


「えっ、ここじゃダメなの?」


「いくら俺でも次元を開く程の魔力を一箇所に留めるには、ツリーハウスの中みたいな閉鎖空間でなきゃダメなんだ」


首を傾げるベンゾウさん。


分かって無いな……


「兎に角、急ぐぞ!」


「呼べば?」


「誰を?」


「契約してればご主人様の元に、すぐ来るんでしょ?」


あっ……


赤い顔の惣一郎はミネアにコールを飛ばし、事情を説明すると、種を持ったシープが目の前の魔法陣から現れる。


「旦那様?」


説明なく出された様だ。


「すまんシープ! 急ぐんだ中に!」


村に入ると惣一郎はすぐに、ババを探し始める。


追いかけるミネアが、


「惣一郎様、キューテッドさん達がまだ戻ってなくて、町に置いてきてしまったのですが」


「ギネア達と合流させてくれ! スワロ奪還のアイデアを思いついたんだ!」


「ベンゾウが、でしょ!」


畑仕事を手伝うババを見つけると、惣一郎はババの持つツリーハウスを貸してくれと頼む!


ユグポンより小さい空間なら、次元も楽に開きそうだからだ。


「何する気や、惣一郎」


ババが種を取りに部屋に行ってる間、現れたドラミに次元を開く事を伝える。


「アホか、前のアレをユグポンの力無しでやってみ、ツリーハウスごと持ってかれるで!」


「えっ、そうなの?」


「あんな〜 惣一郎だけの力で前回成功したんちゃうで。地に根を広げユグポンがこっちを固定してくれたからやぞ。ユグポンの力無しで出来る訳無いやろ!」


そうだったのか、危ない所だった……


思い付きでやって、次元に飲み込まれる所だったらしい。


「ベンゾウを連れて来たみたいに、スワロを取り戻せると思ったんだ。またユグポンの力借りられないか?」


「村が無くなるがええか?」


「村が?」


「前回の力がまだ戻っておらんねん。今強行すれば村を維持する広さを保てへん、人が通れる程の次元を開くんわ、思った以上に負担が大きいねん! また開く言うなら、後3ヶ月待つか、村を諦めて小さなツリーハウスに全員で住むかや」


3ヶ月は待ってられないな……


「惣一郎様、スワロさんを取り戻せるなら、皆で野宿するぐらい、いいじゃないですか!」


「いや、次元を繋ぐんわ、いい案や! その飾りが道標になるんやったら、惣一郎の探索魔法だけ繋げば、居場所は特定出来るやろ!」


「サーチをスワロのレーテウルだけに集中して飛ばすのか?」


「そんぐらい小さな穴なら、今のユグポンでも問題あらへん」


ベンゾウにコールを飛ばした最初の規模で次元を繋ぐなら、ユグポンにも負担が少ないって事か。


「よし! 居場所が分かれば問題ない。それで行こう」


村人を集め、奴隷契約者を一旦外に待機させると、中庭にミネアが陣を描いていく。


子供達が興味深々に見守る。


「濃い魔力に抵抗ない者は気分が悪くなるぞ、離れてるんだ!」


ユグポン、頼むぞ!


理喪棍を右手と幻腕で握り、深く集中する惣一郎。


膝を突くベンゾウ!


だから外にいろって言ったのに……


上空に黒い雲が渦を巻きだすと稲光りの中、小さな黒い点が開く。


惣一郎は地面に描かれた陣を浮かし、その陣越しにサーチを飛ばす!


どこだ…… スワロ!





だが見えたのは、赤い岩肌に捨て置かれたレーテウルだけだった……





「どや、分かったんか?」


「惣一郎様?」


「レーテウルだけだった…… 赤い岩肌に落ちているレーテウルだけだった」


「その近くにいるんでしょ? ねぇ、ご主人様」


「北の大陸だ…… クソ、あんな遠くに」


「北の大陸…… 赤い岩肌…… 

まさか……[エノルガス大陸]!!」


ミネアの言葉に、その場の誰もが言葉をなくす。








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