九話【寂しいスワロ】

翌朝惣一郎は、ドラミと畑をどこまで広く出来るか相談していた。


「惣一郎の魔力なら、まだまだいけるらしいで」


っと言う事で、ならば4段目と5段目の庭は、畑にしよう。


野菜や穀物、それに果樹園も欲しい。


惣一郎が集中してイメージすると、今までの3倍ほどに広がった庭。


そこにネットで買った農具や肥料などを山積みにし、ドラミといい匂いがする、1段目の中庭に歩き出す。


「なんや、この杖といい、その出鱈目な魔力といい、ほんまバケモンやな惣一郎は」


「バケモンってなんだよ! もっといい例えがあるだろ!」


ドラミの最初の清楚なイメージが、最近は思い出せない惣一郎。


「しかしあの、植物を操るのって魔法だったんだな〜」


「せや、なんやえらい魔力使うねん! 前は気にもしなかったんやが…… 精霊と一緒んなって、変わったんやろか、蟲を呼ぶスキルにも魔力使うねん!」


へぇ〜 そうなんだ…… まぁ、生命力使うよりはいいのかな?




起きて来た村人が、順番に朝食を摂り、仕事を始める。


「おはよございます、旦那様」


「おはよ、ほ、ホルスタイン…」


自分で付けておいて、恥ずかしそうに呼ぶ惣一郎。


揺れる巨大な胸に話しかけている。


「ジルは?」


「先に湯浴みに、行きました」


昨夜のうちに陣職人だったミネアが手伝い、3番目の木に簡易ではあるが、惣一郎が風呂を作っていた。


みんな喜び、何度も入れ替わり癒されていく。


「あの様な浴場まであるなんて、ホント夢の様です!」


「喜んでもらえて良かったよ! 後でもう少し改良するが、しばらくは交代で我慢してくれ」


ドワーフに頼み簡易の桶に湯を張っただけである為、今は一度に4人ぐらいしか入れない。


しかも定期的に惣一郎がクリーンをしにいかなくてはならない。


ゆっくりと疲れを癒せる温泉を作りたい惣一郎には、まだまだ改良の余地がある。


「ほ、ホルスタイン! さっき畑を広げて来たので、食事が終わったらみんなを集めてくれ」


「はい! 畏まりました旦那様」


すると、先に食事をしていたタイガ達が、


「旦那、俺らはどすれば?」


「ああ、しばらくは畑組を手伝ってくれ。女性ばかりだからな。力仕事を頼みたい」


「了解だ」


なんだかんだと、やる事が多い惣一郎。


だがそれを楽しんでいる様にも見えた。



「主人! 探したぞ、朝から何処へ行ってたんだ」


「ああ、すまん、ドラミと畑を…」


勢いよく抱きつくスワロ。


「プハ! ちょ、なんだ」


「私を置いて、行かないでくれ……」


惣一郎より背の高いスワロが抱きつくと、胸に顔が埋もれる。


なんか最近スワロの情緒がおかしい。


落ち着かせる為に惣一郎は、その場をドラミとミネアに頼み、二階へと連れて行く。




ソファーに腰を下ろす惣一郎とスワロ。


「どうしたんだ、スワロ。お前らしくないぞ」


「主人よ… 私はもう、少しでも離れるのが嫌だ! 前はベンゾウ殿もいたし、マイズの村の事もあり残ると決意したが、後悔し後を追って襲われ、二度と会えなく……」


そうだ、スワロは俺を追いかける途中で殺され、この世界に来たのだった。


「この世界で私は… もう会えないと思っていた惣一郎殿に、こうしてまた会う事が出来たのだ! まさに奇跡だ! もう二度と同じ後悔はしたくない……」


スワロ……


抱きつくスワロから、黒いオーラが見え始める!


メラメラと黒い炎に見えるオーラ。


覚えがある!


ベンゾウが持っていた小刀。


惣一郎をも飲み込むオーラから、感情が伝わる。


強い嫉妬にも似た負の感情……


抱きしめ返す惣一郎の手が、力無く離れる。


スワロ?




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