十話【囚われたリザードマン】
抱きしめるスワロの手が力強く惣一郎の顔を引き寄せると、唇を重ねてくる。
抵抗する事なく受け入れる惣一郎。
そのまま流れで横になっていくと、
「なんや朝っぱらから、ウチも混ぜたらんか!」
っとドラミがふたりに覆い被さって来る。
焦る惣一郎にスワロは優しく、
「では3人で楽しもうか!」
っと、おどけた笑みを浮かべる。
オーラは消えていた。
正直ちょっと怖かった惣一郎は、救われた思いで、
「待て待て、昼間っから! もっとやる事があるだろう!」
っと、慌てて抜け出し取り繕う。
「つれないの〜」
ドラミの言葉にスワロは笑っていた。
独占したい訳ではないのだろう……
そこにまた、ゴゴが下から声をかけてくる。
「勇者様!」
「せや、ゴゴが探しとったわ!」
早く言えよ……
一階に降りる惣一郎。
玄関でゴゴが「勇者様、例のリザードマンが目を覚まし、話しがしたいそうです」っと話を続ける。
そうだった、忘れていた!
ゴゴの案内で3番目の木に出来た部屋の一室に案内される。
スワロも惣一郎と同じ白いローブで付いてくる。
傭兵団予定の者が住む、この3番の木の一階部分に、牢屋ほど物々しくは無いが個室を作り、外から鍵がかかるその部屋に、リザードマンとジジがいた。
「目が覚めたか、すまんな無理矢理連れて来てしまって」
「あんたが勇者か?」
「まぁ、そういう事に… で? なんで街に無理矢理侵入したんだ?」
「仲間が囚われたので助けに行ったんだが、見つからなくってな、あの街に居ると思ったんだが、何処にも居なかった」
「ん? 広い街をあの短時間で、探したのか?」
「ああ、仲間が近くに居れば、このオーブが反応するのだ。だが、侵入し直ぐに街に居ないと分かったので隠れていたのだ。街から逃げ出すチャンスを待ってな」
手のひらに収まるサイズの、小さな赤いガラス玉であった。
「仲間はなんで捕えられたんだ?」
「決まってるだろ、奴隷にする為に! 仲間はまだ幼い獣人の子だ。故郷をなくし路頭に迷っていたあの子を俺が助け、一緒に旅をしていたんだが、目を離した隙に攫われてしまい追いかけて来たのだが……」
惣一郎はリザードマンの話にゴゴを見るが、ゴゴも首を横に振る。
知らない話の様だ。
「他にあてはあるのか?」
「近くの街と踏んで、奴隷商が多く有名なトリグルと思い来たんだが、ここじゃ無い様だ…… 他が思いつかん」
「そのオーブじゃ、近くまで行かないと分からないのか?」
「ああ、オーブに刻まれたあの子…[ココ]の魔力に反応するのだが、範囲は俺の魔力でも約800mが限界だ」
ゴゴの話ではこのリザードマン、魔剣士とこの世界でも珍しい個人で依頼を請負う傭兵の様で、剣に刻まれた陣で幾つもの魔法を使いこなすと言う。
魔力には自信があったのだろう。
魔剣士ね〜 槍で襲って来たが……
「ふ〜ん。貸してみ!」
オーブを借り、馬鹿みたいに魔力を注ぐ惣一郎。
赤いオーブから南南東に赤い光の細い線が現れる。
口を開け驚き、声を失うリザードマン。
「向こうに居るみたいだな?」
リザードマンにオーブを返すも、光の線は失われなかった。
「す、すまん! 頼む行かせてくれ!」
「それはいいが……」
「大丈夫だ。なんとか街から逃げ出して見せる!トリグルの南南東じゃ[ココ]はまだ森にいるんだ。急がなくては」
「いや、ここ、トリグルじゃないのよ」
「へ?」
惣一郎はゴゴに説明を任せ、部屋を出る。
追いかけていく前に飯でも食って行けと食事を作りに。
1番目の中庭は、すっかりみんなの食堂になっていた。
屋根だけが大きく広がり、長いテーブルが並んでいる屋外。
奥には厨房まで出来ている。
幾つもの窯が並び大きな鍋が置かれ、大きなキッチンテーブルには、果物や野菜が並び、異世界の包丁が並んでいる。
惣一郎の地球産の包丁は、この世界の物とは比べ物にもならず、数本ドワーフが興味から持っていってしまい、何本か抜けていた。
今ではメイド達が常に、目を光らせている。
「旦那様、お食事ですか?」
「いや、例のリザードマンが目を覚ました。ここを出る前に何か食べさせてやってくれ」
「畏まりました!」
両手でスカートを軽く捲り、すっかりその気になっているメイドのマーガレットとテルミナ。
すっかりテルミナも、姉のミネア以外の大人のマーガレットに懐いていた。
「主人よ!」
スワロがお茶を淹れ、テーブルに誘う。
コイツの情緒が少し不安な惣一郎は、立ったままお茶に手を伸ばす。
ゴゴ達に連れられ現れたリザードマン。
「勇者よ、色々世話になった様だ」
「ああ、取り敢えず飯を食って行けよ! 体力付けないとな」
「すまぬ…… 俺は[ギネア]と言う」
「惣一郎だ」
リザードマンのギネアは腹が減っていたのだろう、出された物を勢い良く、美味い!っと食べていく。
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