八話【答えの無い問題?】

ジルの故郷である名もない洞窟の村は、恵まれた環境から長年、秘密の里として20〜30人と、少ない人数で暮らしていたが、蟲に襲われた旅人を助けた事で、その旅人を追って来た蟲に入り口を塞がれ、籠城する事しか出来なくなったそうだ。


村人は旅人を助ける助けないで割れ、結局助けた事で今回の事態を招き、村長は威厳を失い、責任を取る形で蟲を遠ざけようと半数の村人と外に出て蟲の餌食になった。


その際、運良く外に逃げられた数人の内のひとりがジルであった。


だがその後、街を目指したジルは奴隷商に捕まり、奴隷として売られ他の村人の消息はわからなくなったと言う。


洞窟の中は湧き水が湧いており、奥の一部に畑もある事から、洞窟に残された人達はなんとか、生きてこれたそうだ。


「父上、勇者様が直ぐに助けに来てくれたのは、あの時の私達と同じ気持ちをお持ちだからです!」


「ミネルバ、手を差し伸べた結果、我々は閉じ込められたのだ。蟲を倒してくれた事には感謝するが、やはりこの地の秘密は守るべきだったのだ」


何やらこの状況で、親子喧嘩が始まった様で、惣一郎は話に付いて行けなかった。


惣一郎はスワロに、外のみんなにユグポンで待機する様に伝えてくれと頼み、洞窟を出ていくスワロ。


親子喧嘩は、まだ続いている。


「忙しい所すまんが、ジル。もしこのまま村に戻りたいなら、契約を解除してもいいが?」


「いえ、その必要はありません! 私は困っている人を見捨て、自分達だけ助かる様な村には戻りたくありません」


「ミネルバ、それは守れる力がある者の考えだ。村長が助けた旅人はどうなった! 結局多くの犠牲を出し、村を危険にしただけではないか」


「追い出さなければ全員助かったではないですか!」


「そうしなければ…… 閉じ込められた村の食糧だけでは、全員餓死していただろう」


「助けが来るか、蟲が諦めたかも知れないではないですか!」


正直どっちの言い分にも加担したくない惣一郎。


話半分の惣一郎にも、答えは出せなかった。


「まぁ、取り敢えず、生き残った人が無事で良かったな! 亡くなった方々は残念だが」


「勇者様は、どちらが正しいと思いますか!」


振ってきたよ……


「す、すまんがその状況にない俺に、口を出す資格は無いよ」


「いえ簡単な話です、勇者様がもし同じ状況ならどうしたか、娘に教えてやっていただきたい」


巻き込むなよ……


痩せている生き残った村人からの視線が集まる……


「現実として村の事を思う気持ちも分かる。犠牲を出したくない親父さんの話も…… だが心情的に俺は助けたいかな。でもその気持ちに賭けていいのは自分の命だけかな〜 巻き込む犠牲が出るなら、また別の選択を考えるかも知れないし、その状況にならないと」


「結局どちらですか?」


「はっきりした答えは、出ないんじゃ無いのかな〜 でも、同じ後悔するなら、胸張って後悔出来る方!って話よ」


「「「 ………… 」」」


言ってて俺も良く、分からなくなって来たな……


「じゃ、まぁ俺は行きますね! みんながそんな事で悩まなくていい世界になる様、蟲を倒して来なきゃ!」


「勇者様……」


「父上! 私はジルと言う名で勇者様のお力になります! 蟲に怯えなくていい世界を作る為に! ミネルバは死んだとおおもい下さい」


頭を下げるジルが、惣一郎の後を追いかける。






惣一郎はユグポンに戻ると、ジルに一晩良く考える様に伝える。


出発は明日にすると、考える時間を与える。


夕食には、みんなで鍋を中庭で囲み、同じ話をみんなにもする。


奴隷契約はいつでも解除すると判断をみんなに委ねる。


帰りたい場所があるなら、路銀も渡す。


だがみんな、すでにこの村にいる方が恩恵が大きいと思っていた。


力の湧く食事。


安心して寝れるベッドは、今まで味わった事の無い寝心地。


女性の多くは着る服と下着がすでに手放せない。


ドワーフ達も、この世の物とは思えない酒の味に、奴隷になって良かったと言う。




ネットショップには前の世界からチャージされた金額が腐るほど入っている。


一生全員の食費には困らない金額だ。


だが、惣一郎はこの村で自給自足できる様に、畑を提案する。


ネットで買った種をここで育て、今後人が増えてもやって行ける環境を作りたかった。


「じゃまぁ〜 みんな村の為に頑張って働いてくれ!」


「「「「 おお!! 」」」」







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