十五話【解放】

「毒は効いてるのか?」


盾を構えるゴゴがそっと蟲に近付く。


緑の巨大な蟲が、薄っすら白くなるほど殺虫剤が積もっているのに、全く動きが無い。


時折触覚が動くので、死んでいる様には見えなかった。


目は赤くこの大きさの蟲に、もし外敵がいるのなら『私はここだ』っと主張する様に、緑のリングが脈を打つ。


足元まで来るとゴゴは、盾を前に構えながら地面に伸びた刺々しい脚を覚悟を決め蹴り上げる!


カポーん……


空洞を叩く様な乾いた音が響く。


そして動かない……


ならばと一斉に攻撃を仕掛ける騎士達。


ゴゴとジジは盾を片手に惣一郎に貰った、叩くに特化した金属の金槌を振りかぶる!


タイガは尖った鋭い槍を!


ジャニーは長い長剣で!


ホルスタインは新たに手にした長い日本刀、偽物破邪の御太刀を肩に背負い!


ギネアも美しい波紋の薙刀を高く、弧を描く!


示し合わせた攻撃は、大木を抱える様に寄り掛かる緑の巨大な蟲の背中に、綺麗な一撃と成る!


大きな葉っぱの様な蟲の背に、深く突き刺さる騎士達の一撃。


それでも蟲は触覚がクイっと動くだけだった。


次の瞬間!


「離れろ!」っと槍を突き刺すタイガが吠える!


蟲の背中に亀裂が走り、殻を破る様に中身が溢れ出す!


白い無数の人程の大きさの米粒が、溢れる様に蟲の中から雪崩れ落ちる!


慌てて距離を取る騎士達!


そこに丁度、ミコとガオが応援に駆けつける!


「何だコリャ!」


無数の白い大きな卵が、割れた蟲の背中から広がり、ウネウネと動いていた。


「ミコ様! あれを!」


ハクが指差すその先で、溢れた白い卵から、濡れた黒く長いハエの様な蟲が、にゅるんっと姿を現し、透明な羽を広げ、乾かす様に小刻みに羽ばたく!


次々と孵化する、緑に輝く大きな目のブヨ!


濡れた毛が黄金色に陽の光りを反射する。


「大量の卵を体に……」


「この量、やばく無いか?」


次々と孵化するブヨから目が離せない騎士達。


その一匹、まだ濡れた生まれたばかりのハエを、鉈で叩き斬るミコ!


「見てる場合じゃないだろ! 柔らかいうちに殺せ!」


呆気に取られていたゴゴ達が我に帰り、ミコに続く!








「ちょっとキシル〜 卵を仕込んだあの蟲まで襲われてるわ…… もう全部居場所がバレた見たい…… 一体どうやってよ、もう!」


遠くの空を見上げるネネル。


蟲の混ざるハイブリッドへと姿を変えたキシルは返事もせず、ベンゾウと弁慶から目を離さない。


「最初っから相手が悪いのさ! 旦那様はお前らの敵う相手じゃない!」


戦斧を構え、挑発する弁慶。


その弁慶の挑発に、ベンゾウを見失うキシル!


だがそれを探そうと、弁慶から目を逸らす事も出来ない!


後ろのネネルに背中を押しつけ、視野を広げるキシルだったが、その一瞬で弁慶の大きな斧が目の前に迫っていた!


二の腕が瓢箪型の黒い腕で、受け止めるキシル!


硬いはずの黒い腕は、弁慶の戦斧を受け止めきれず、右腕を失くす!


「ネネル! 逃げて!」


その攻防だけで、このふたりには敵わないと瞬時に理解したキシルが振り返るとそこには、ネネルの首の無い体だけが立っていた……



ゆっくりと前に倒れる様にもたれ掛かる、ネネルの体。


その影には、青白いオーラを纏い二本の白い小刀を握る、女の姿が見えた。


勇者……


固まるキシル。


弁慶も戦斧を肩に担ぎ、追撃する気配も見せない。


一気に色んな記憶が頭を流れるキシル。


キシルもまた、ネネルに操られていた1人であった。


『私は…… 私は何を守っていたのだ…… 私はここで誰と戦っているのだ……』


赤い目のキシルはネネルの呪縛が解け、自分が魔女である事を思い出す…… っと思い込む。


本当は何者なのか、もうそれを知る者は何処にもいない……


ゆっくりと回る世界を見ながらキシルの頭は、地面に転がり、ネネルの頭と並ぶ。


解放という言葉が最後に浮かび、キシルの顔は穏やかな表情になっていた。







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