十三話【進む者と残る者】

地面に降りた惣一郎が上位種の頭の前に立つ。


牙の様に黒い顎を動かし、口の周りにオレンジ色の触覚が4本見えるが、赤い目は人のものだった。


「まだ喋れるか?」


「流石は…… 勇者だ……」


「ありがと…… なぁ、お前の目的はなんなんだ? スワロを攫って乗っ取るのに俺を殺したいのは分かるが、乗っ取ってなにがしたいんだ?」


「フフッ……」


動かなくなった頭から、眼球が溢れる。


「内緒かよ!」


惣一郎はオイルライターのオイルを出して、火を着ける。


「ご主人様、こっちの蟲は目が赤くないよ」


カミキリムシの顔を覗き込むベンゾウ。


惣一郎が近付き、収納すると全部入った。


乗り移ってなかった?


上位種が蟲を操っていたのだろうか?


ダンゴムシも上位種が倒れた時に正気に戻った様に見えた。


隷属ってやつか……


惣一郎はムカデとダンゴムシも収納すると、ベンゾウに「魔女の匂いはするか?」っと尋ねる。


「大丈夫。しないよ」


ベンゾウの返事を聞くと惣一郎は種を置き、木が生えると、ドラミが顔を出す。


「酷いあり様やな……」


「ああ、ルドの村の人達を呼んでくれ」


木に戻っていくドラミが村人を連れて来ると、村の惨状に膝を突く者。


家の状況を確認しに急ぐ者。


その大半は、我が目を疑い固まっていた。


長閑な風景だった村が瓦礫の山だ、無理もない。


「すまんが転移屋はいるか?」


すると立ち尽くす村人の中から、やはり服を着た猫が、二足歩行で歩いて来る。


「私ですニャ」


「こんな時にすまんが、転移陣が使えるか確認を急いでくれないか?」


「わ、わかったニャ」


猫の後をついて行く惣一郎。


惣一郎が向かうのを見て、ようやく動き出す村人達。


ドラミが外壁を失った村の周囲を監視する。


ユグポンの村の連中も出て来て、ルドの村の人達が私財を掘り起こすのを手伝い始める。


中には無傷の家もあった。





転移屋に着くと、半壊した家屋の瓦礫をどかし、陣が使えるか確認をする惣一郎と猫。


「無事なのは一箇所だけニャ……」


っと、項垂れる猫。


「場所は?」


「南西の[ササブサの町]にゃ」


「ありがと、みんなに必要な物だけ持って移動すると伝えてくれ。あまり時間をかけられないんだ。すまない……」


魔女がまた襲って来るかも知れない。


「わかったニャ……」


突然故郷を失った村人に、他にかける言葉はなかった。




ユグポンの前に集まる人々。


驚く事に村人の半数は村に残ると言い出した。


家もまだ、直せば住める者達だ。


惣一郎が移動をすれば魔女も惣一郎を追い、これ以上村を襲う事は無いのかもしれないが……


「わかった。住む所を失った者はユグポンの中に」


「すまんな勇者よ、我々もあの村の食事には後ろ髪引かれる思いなのだが、やはり長年住んだ村は捨てられんのだ。また一から頑張るよ」


「こちらこそ手を貸せなくてすまん。俺が残ればまた巻き込むかも知れないしな。コレは何かの足しにしてくれ」


惣一郎はさっき倒した蟲の魔石と死骸を置いて行く事にする。


売れば村の修繕費にお釣りが来るだろう。


別れを済ませ、転移屋からササブサの町に向かう惣一郎。


見送る村人が無理した笑顔を向ける。







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