十八話【物乞い】

森に広がる無数の死骸。


中にはまだ脚を動かすものもおり、タイガ達がトドメを刺して歩く。


ハクにキュアをかける惣一郎。


「あんなスキル持ってたんだな。助かったよ」


「いえ、ただ空気を集めるだけの役に立たないスキルだったのですが……」


杖を眺め、驚きを隠せないハク。


「主人の毒と相性がいい様だな!」


しゃがみ込み、ホッとするスワロ。


ベンゾウもトドメを刺しに、走り回っている。


惣一郎に貰ったマスクを広げ、ゴゴが、


「これで毒を防げるのですか?」


っと、信用してない様子。


「ああ、みんなに渡しておいてくれ」


そう言うと惣一郎は油ぎった死骸を見て、収納したく無いな〜とも言ってもいれず、回収を始める。



「あの数の蟲を、一撃だぞ…… なんて毒だ」


「ああ、主人の毒は、凄まじいぞ!」


「私の役にも立たなかったスキルが、まさかこんな形でお役に立てるとは……」






数百匹にも及ぶ、ゴキブリの死骸を回収した惣一郎が、今度は蜂用のスプレーをみんなに持たせる。


「目的の巣に着くのは夜になるだろう。だがすでに奴らのテリトリーに入っている。いつ現れてもおかしくないから、その時は慌てずにこのスプレーを使うんだぞ」


「さっきのと絵が違いますね」


「ああ、蟲の種類によって違うんだ。効かないのもいるから十分注意しろ」


改めて説明すると、巣を目指し歩き始める。


流石に朝食を摂る気にはならなかった……





歩きながら惣一郎はハクに、


「あの圧縮はどこまで出来るんだ?」


っと、質問していた。


「あんな威力で使えたのはあれが初めてで、さっきのが限界かと」


「十分使えるよ! 後でマジックバッグを買って、ハクに殺虫剤を渡しておくよ」


「あんな高価な物を! こ、光栄です!」


高いのよね〜 こっちのマジックバッグは。


するとポケットから声が聞こえて来る。


「聞いとったで! ウチに任せとき」


「盗み聞きすんなよ」


「アホ惣一郎! ウチの考え聞いたら、そんな事言えんようになるで!」


「で、どうすんのよ」


「まだ内緒や!」


なんだかな……





しばらく森を進むと「ご主人様」っと、抱きつくベンゾウさん。


「ご主人様、先にまたなんかいるよ!」


「へ? ちょ、ストップ!」


先を歩くゴゴ達が振り向く。


今度は何よ……


サーチを広範囲に広げる惣一郎。


蟲の気配は無い。


「あれ? コレって……」


以前にも感じた事がある反応は、先の木から感じ取れた。


「なぁ、他所のツリーハウスに話しかけるのってマナー違反か?」


首を傾げる一同。


「さぁ…… 分かる者がおりますせんので」


「分かるのですか? ツリーハウスが」


「なんとも出鱈目だな、旦那は……」


間違いなく生体反応の様な物を感じる惣一郎。


ベンゾウにも分かるのだろうか?


すると向こうから目の前に現れる!


木から現れたのは、年配の女性。


白髪に痩せ細った体は60を超える老婆だった。


「旅の方、突然申し訳ない! 何か食べ物を分けて貰えないだろうか」


震える細い腕を出し、物乞いを始める老婆。


その見た目から、何日も食べて無いのは直ぐに分かった。


「子供達も居るのです! どうか、どうかパン一切れでも…」


そのまま意識を失う老婆に、木の中から何人もの子供が慌てて飛び出して来る。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る