二十六話【崩壊】

現れた応援にホッとするガオ。


セシルが叫ぶ!


「外壁の外にも!」


刀を構えるツナマヨが、瞬間的に指示を飛ばす!


「スワロ殿、外壁の外を頼む! ミコは下がれ! ベンゾウ、弁慶! ここは頼むぞ! 私は岩山の上から来るのを抑える!」


ピノとクロが岩山の上から襲い来る蟲に、光剣を飛ばしなんとか持ち堪えていた。


いつの間にか集まる蟲はゴキブリだけじゃなく、色んな蟲が混じっていた。


その中にハイブリッドの姿も見える。


スワロの捜索に森に出ていたグルミターナの人間が戻りつつあったのだ。


「アジトに少ないと思ったのだ!」


岩山を駆け上がるツナマヨ。


ベンゾウと弁慶は、ロンシールから目を離さない。


光剣を足場に外壁に登るスワロ。


数匹の大型の蟲の足元に、ゴキブリや人の面影を残す上位種を目にする。


「流石ドラミ殿の作った外壁だな!」


ピノの光剣とは比べ物にならない数の光剣に雷を纏わせ、空に浮かべ始めるスワロ。


「お姉様……」


疲れ切ったピノの表情も、明るく復活する。


下がるミコを受け止めるガオ。


セシルが直ぐに、回復魔法を唱え始める。


ベンゾウの背後に、岩山から転げ落ちる蟲の残骸。


洞窟から現れ、ゲルドマの斧を持つ弁慶に、ロンシールが静かにグルミターナの崩壊を理解する。


「いや、また始めるだけだ……」


ボソッと言葉にしたロンシールが、ふたりに剣を向け構える。


「勇者は? あの男はどうした」


せめて奴だけでも……






重い足取りで階段を登る惣一郎が、ゲルドマ達と戦った広い空間に出る。


ロンシールが蟲を集め、強制的に次元を開かせた場所。


この大陸から蟲を送り込み、勇者を呼ぶ為だったのか……


奴らを倒せば、ベンゾウ達の世界に厄災が現れる事も減るだろう……


まさか厄災が人為的な物だったとは……


別の世界での事が繋がっていた事に、気が滅入る惣一郎。


上に登る階段を上がると惣一郎は、無数の鉄球を出し、空間の天井を撃ち始める!


入れ替わりマシンガンの様に打ち付ける鉄球は、次第に天井を崩し始め、瓦礫の山が空間の中央に出来ていく。


杖を構え集中する惣一郎。


徐々に崩れる瓦礫は大きくなっていき、地鳴りが聞こえ始めると、一気に崩壊を始める!


鉄球を引き連れ、慌てて出口へ向かう惣一郎。


途中から杖に乗り、一気に出口へ向かう。


激しい地鳴りと崩壊音が惣一郎を追いかけて来る。


やり過ぎたと焦る惣一郎が、勢い良く洞窟を飛び出すと、そこにはボロボロになった蟲が混ざる銀髪のダークエルフが黒い剣にもたれ、なんとか立っているといった状況であった。


外壁の上ではスワロが手を振り、外は夥しい数の蟲の死骸で埋め尽くされている。


旋回し戻ると、岩山の上にはツナマヨが肩を揺らし、鞘に刀を仕舞う。


クロの背中でぐったりするピノも見えた。


みんな無事の様だ。


セシルに治療を受けるミコの元に降りる惣一郎。


岩山の向こうで大きな音を立て、地面が崩れ落ち始める。


ツナマヨとクロが急いで岩山を降り始める。


「怪我の具合は?」


脇腹を抑えるガオが「ガオ」っと言うと、俺は大丈夫っと聞こえる。


セシルが膝に乗せたミコを見て、


「もう少し時間がかかりますが、大丈夫です」


っと答える。


ミコは笑っていた。


「大した事ねーや」


惣一郎は回復薬をミコに渡し振り返る。


弁慶とベンゾウに挟まれ、膝を突くロンシール。


「お前がロンシールか?」


額から流れる血で片目を塞ぐロンシールが、震える脚でまた立ち上がり答える。


「妾が魔女ロンシールだ…… 貴様が勇者だな」


ベンゾウと弁慶に怪我はなさそうだ。


流石にこのふたり相手では、魔女でも勝てまい。


「終わりだ。魔女に操られて復讐したいんだろうが、無意味だ。復讐したい勇者は魔女を封印しお前らが喰った御神体だ」


「そんな事知っておるわ!」


「魔女の残留思念に振り回されているだけなんだぞ!」


「煩い! 何も知らぬ癖に、妾達がこの世界でどう生きて来たか貴様に何がわかる!」


声を荒げるロンシールに反応するベンゾウと弁慶。


惣一郎が幻腕を出し、ふたりを止める。


「何も知らないし知りたくもない…… ただな、関係ない人達を巻き込むな!」


無数の鉄球が惣一郎の背後から、ロンシールを襲う!


硬い剣に弾かれるも次々に襲う鉄球が、次第にロンシールの外殻を砕き、押し倒す!


剣を手放し大の字で天を仰ぐロンシール。


夜空は東から薄明るくなり始めていた。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る