十九話【久々の一人旅】

魔女は惣一郎達が、エノルガス大陸に向かう事を知らない。


変装した惣一郎がひとり、村を持って北に向かう事で会議は落ち着く。


村の入り口の木をケンズールの街に置いて来たゴゴ達も、変装し引き続き情報を集める事になる。


危険を承知で……


ドワーフ達が急ぎ作る惣一郎の出した合金の糸を織り込んだネックウォーマーの完成を待つ事で惣一郎も折れる。


ミネアもババから伝承について、詳しく話しを聞くと言う。


他の者も今、出来る事で協力する。


エノルガス大陸へ行く事を反対する者は、ひとりもいなかった……


惣一郎はドラゴンの鎌を収納し、必ず魔女に突き刺してやると、燻る火に誓う。






「こんなものか?」


「ええ、十分普通の旅人に見えます、惣一郎様」


町で仕入れた普通の服に、旅人らしく大きな荷を担ぐ惣一郎。


首には用心の為、金属の糸を織り込んだ布を巻いて顔半分を隠す。


元々見た目、普通の惣一郎は何処からどう見ても普通の旅人で、印象に残らない格好だった。


「なんや、もう出るんか?」


勝手に入って来て品の無い言葉を話すドラミ。


「ああ、転移屋で行ける所まで進むつもりだ」


「夜には戻るんやろ? 頼みがあんねん」


「頼み?」


「ユグポンの消耗が思ったより大きいねん、毎晩魔力を村で放出してやってくれんか?」


「ユグポンが?」


小さくても次元を開いたからだろうか?


「せ、せやねん! ほな、頼んだで」


ん? 動揺してる?


言いたい事を言うだけ言って逃げる様に帰るドラミ。


ふとベンゾウを見ると、背を向け頭の後ろで両手を組み、吹けない口笛を吹こうと一生懸命惚けるベンゾウ……


なんだ? なにか企んでるのか?


するとゴゴ達も出発すると挨拶に顔を出す。


「おお、それなら目立ちませんな!」


感心するゴゴは首に巻いた布で顔半分隠すも、図体がデカいからか、目立ちそうだ……


「おまえは目立つぞ?」


「えっ! そんなどう見ても普通ですよ、なっ」


「………」


普通ってなんだろう…… 不安になる惣一郎。


「まぁ、ふたり一組で別れて行きますので」


「誰と?」


「ジジですが?」


「組み直せ!」


結局キューテッドの仲間だったエルネンドと組むゴゴ。


ジジはもうひとりのガリンバと、ハクとキューテッドと、その三組がケンズールから情報を集めにばらける。


「お前らも決して無理はするなよ! 怪しまれたりつけられたらすぐに逃げるんだ。絶対戦うなよ」


「わかりました」


不安は残るが、それだけ言うと惣一郎は村を出る。


ベンゾウが駄々を捏ねると思っていたが、残された騎士達の他、ジルやローズなど戦闘経験がない者も数名、訓練がしたいと申し出たので、相手を頼んだら素直に引き受けた。


タイガやドラミもいるし大丈夫だろう。


ギネアは村に魔女を連れて来た責任を感じ、まだ酷く落ち込んでいるそうだ。


今はそっとしておこう。




森の中を転移しながら、ユースエル街を目指す惣一郎。


ひとりでの行動は久しぶりに感じる。


サーチを絶えず発動しながら惣一郎は、魔女の目的、魔女崇拝者、上位種、対抗策などを考えながら、森の変わらぬ景色の中を進む。


何千年と昔のお伽話の魔女。


勇者に倒された魔女が、力を失いながらも今日まで生きていた。


魔女が生きていたから呪いは解けず、蟲が増え続けているのか?


復讐したかった国はすでに、この世には無い。


分からない事を今考えても、答えが出ないのは分かっていたが、ひとりだとどうしても考えてしまう。


そのおかげか時間が進むのも早く、ユースエルの街が見えて来た。


何度か来た小慣れた街だったが、ひとり旅人の格好だったからか、歓楽街では良く話しかけられる。


「お兄さん、一人旅? 溜まってるでしょ、いい子いるよ!」


「お兄さん、うちで一杯やって来なよ!」


派手な看板の正体を見た惣一郎は、ヘラヘラと笑って誤魔化し、真っ直ぐ転移屋を目指す。


転移屋に着くと勇者の時と違って対応も冷たい。


「何処まで?」


「北を目指したいんだが」


「じゃ左の奥から[コーネイツ]、金貨7枚だ」


あれ? まぁ高いけど前より安い?


転移屋も人を見て、値段を決めている様だった。




そのまま転移屋から転移を繰り返す事6回目。


惣一郎の瞬間移動の転移とは違うのか、軽く酔って来た惣一郎。


[ゴリダダ]と言う町で、少し休む事にする。


湖の近くなのか、至る所に噴水や用水路があるおしゃれな町並み。


休憩には丁度よかった。


噴水で冷えた水をペットボトルで飲んでいると、近くにいた男が話しかけてくる。


「おや、変わった水筒ですね」


40を越えた感じの旅人だろう、大きな荷を持つ男。


「ええ、まぁ」


疑心暗鬼の惣一郎は、人の良さそうな男の首元が気になる。


「透明で軽そうだ、少し見せて貰えませんかね」


軽い眩暈と吐き気がする惣一郎。


正直関わりたくないが、図々しく隣に座る男の押しの強さに、ペットボトルを見せる。


軽さに驚き、ガラスでもない透明な入れ物に、興味深々だった男が、次に言う言葉を想像できた惣一郎。


ダンジョン産は通じないよな〜


「素晴らしい! これを何処で! 是非売って頂けないでしょうか?」


ほら来た……


すると男はここでようやく、惣一郎の青い顔に気付く。


「おや、具合が悪いのですか?」


「ああ、すまんが今は頭が回らん、またの機会にしてくれ」


「転移酔いですか? 出てくる所が見えたものでして」


男はゴソゴソと自分の荷の中から、紙に包まれた黒い丸薬の様なものを差し出す。


「酔い止めの[ダリの実]です。おひとつどうぞ」


親切そうな顔の男だが、今の惣一郎は少し戸惑う。


だが、荷を漁る後ろ姿に傷はなかった。


「なに、お代を請求したりはしませんよ!」


っと笑う男に惣一郎は、毒でもキュアがあるしいいかっと、一粒口に入れる。


「にっが!」


「あはは、そりゃダリの実ですしね! 日に転移を何度もしては、体の魔力が干渉して酔うのです。お急ぎでもほどほどにしないと」


そう言う事なのね……







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