十八話【トリグル】
早朝、スワロの反対側から抱きつくドラミに驚き、目を覚ます惣一郎。
いつの間に潜り込んで来たんだコイツ!
薄着で気持ち良さそうに寝息を立てているドラミを、起こさない様にベッドを出る。
キッチンにみんなの朝食を作り並べると、惣一郎はひとり街に向かう為、ツリーハウスを出ていく。
揺れて見送るユグポンが種になると、ポケットに仕舞い杖に腰を乗せ、まだ薄明るい空へと飛び立つ。
涼しい朝の風を受けながら飛んで行くと、遠くに大きな壁が見えて来る。
あれがトリグルか……
厄災も随分近くまで来てたんだな〜
惣一郎は聳え立つ外壁の上に瞬間移動して、街の様子を伺う。
広い街には、中央の神殿の様な石造の建物を囲む様に、簡易な木組みのテントの様な家が無数に並んでいた。
まるで避難民が集まるキャンプの様であった。
早朝にも関わらず賑わう街かと外壁に腰を下ろし様子を見ていると、どうも様子が違う……
武器を持った獣人や人族が慌てている様に見える。
飛び交う声も冷静では無い。
何かあったのだろうか?
すると街の北側で鐘が鳴り、武器を持った人達が慌ただしく集まりだす。
惣一郎は自分が見つかったのかと焦るが、原因が自分じゃないと分かると下の目立たない場所に転移し、何食わぬ顔で街を歩き始める。
朝食の準備か至る所からいい匂いが漂い、露店が並ぶ通りを歩いていく。
時折、武器を持った男達が惣一郎の横を走り過ぎていく。
露店で見かけた野菜を買い込みながら、惣一郎は店主に「何かあったのか?」っと尋ねる。
「ああ、いつもの事さ。奴隷として攫われた身内を救おうと誰かが襲って来たんだろ。街までは易々と入れやしないのにな」
「街? あれ、ここがトリグルじゃ無いのか?」
「なんだ、お前さん初めてか? 街は中央の入り口から飛んだ先の地下にあるのよ。ココは俺たちの様な、金もコネも無く街に入れない者が集まってる所さ」
なるほど……
惣一郎は買った野菜を収納すると、中央の建物へ向かい歩き始める。
石段を登ると門が見え、槍を持つ門番がふたり立っていた。
偵察隊と同じ牙を生やす大男であった。
「街へ入りたいんだが」
男は惣一郎を舐める様に見ると、
「金貨2枚だ」
っと、手を出す。
人を見て値段を決めている様に思えたが、揉めたくも無い惣一郎は黙って金貨を2枚渡す。
「すまん間違えた! 4枚だった」
隣の男がニヤニヤ笑っている。
「高すぎるだろ。流石に4枚は払えん」
「そうか、通行料は毎日変わる。今日は諦め、また来るといい」
ため息を吐く惣一郎が手を出すと、男が「まだ何か?」っと惚ける。
「諦めるから、金貨2枚返せよ」
「キャンセル料だ、知らんのか?」
隣の男が笑う。
苛立つ惣一郎が幻腕を出し、槍を持つ男の手を上から握ると、直ぐに苦悶表情で膝を突く。
「イダダダダ! は、はなせ!」
「離すのは金貨4枚だ」
出遅れた隣の男が槍を向けるが、直ぐにそのまま前に倒れる。
白目を剥いた男の懐から惣一郎の鉄球が転がる。
「は、離せ…… こ、こんな事して、どうなるか……」
「だから金貨4枚だって、早くしないと値上がるぞ」
見る見る汗が噴き出す男は、空いてる手で惣一郎の幻腕を上から殴るが素通りし、掴む事も出来ない。
「わ、わかった、わかった! は、払う」
少し力を弱める惣一郎。
男は惣一郎から受け取った2枚とは別に、さらに金貨2枚分の硬貨数枚を、両膝を付いた前の地面に投げ出す。
「街へ入りたいんだが、それで足りるんだっけ?」
並べられた金貨を見ながら静かに聞き直す惣一郎。
「か、金は払っただろ! 早く…イダダダダ! わかった! 足りる、コレで足りるから!」
ようやく解放された男は槍を手放し、潰れた手を抱え込みながら、震えるもう片方の手で門を開ける。
惣一郎はゆっくりと門の向こうの魔法陣に乗る。
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