十九話【魔石の価値】

光る景色の先には、洞窟を切り広げた様な街が広がっていた。


天井には4つの光源が街を照らし、石と白い漆喰で作られた家が、綺麗な街並みを作っていた。


騒ぎになる前に、転移屋に向かおうと歩き出す惣一郎。


前の石段を降りると、後ろの陣から大きな影が飛び出し、街中へと消えて行った。


ありゃ、門番を使えなくしたから、変なのが中に入れちゃったかな?


言う程心配してない惣一郎は、どうでもいいと歩き出す。




街は朝市だろうか、賑わっている。


さっき上で買った野菜より質の良さそうな物が並んでいる。


魔族と人族の違いはツノしかわからないが、そのどっちかが多い人混みの中、目移りする露店にテンション高く、急ぐ理由を忘れる惣一郎。


片っ端から物珍しい食材を買いまくる。


ミネアならわかるだろう!っと、手当たり次第に買っていくと所持金の少なさを思い出す。


「すまん店主! 魔石を売りたいんだが、店を教えて貰えないだろうか?」


「あら、運のいいお客さんだ。魔石ならこの先の魔法薬を売る店で、買い取ってくれるよ!」


礼を言う惣一郎が、買い物の代金を払うと、街中に鐘が鳴り響く。


「なんの鐘だ?」


「3回、3回、2回…… って事は、侵入者だね〜 街まで入るとは珍しい」


その割に、慌てる様子が見られない店主。


「随分落ち着いてるんだな〜」


「どうせ、奴隷商絡みでしょ! 蟲の襲撃以外じゃ動じないさ! 直ぐに捕まってソイツも奴隷になるだけ、コレぐらいで騒いでちゃこの街じゃやって行けないね〜」


「なるほど…… 冷たいんだな〜 奴隷だってどうせ無理矢理攫って来たんだろうに」


「仕方ないのさ、商売だしね〜」


嫌な街だ……


惣一郎はとっとと街を出ようと、転移屋の場所を聞く。


「えっ、転移屋? 転移屋は今の鐘で封鎖されてるよ。侵入者が逃げられない様にね〜 街の入り口も封鎖されてるだろうから、捕まるまでは何処にも行けないさ」


ありゃ……





迂闊にも、街に閉じ込められた原因に加担した形の惣一郎は、行き場の無い憤りを感じながら、魔石を売りに向かう。


なる様になるか……


教えてもらった店に入ると、回復薬など色んな薬が瓶で並んでいた。


甘い匂いが充満する店内を奥まで進むと、カウンターに老人がひとり立っている。


「いらっしゃい、何をお求めで?」


「朝からやってて助かるよ! 魔石を売りたいんだ。それと回復薬も金額が合えば」


「ほぉ、魔石をお持ちか。品薄なので助かるよ。それとこの街の店は何処も、早朝から昼までしかやっておらん。それだけでお前さんが来たばかりだと分かるが、まさかさっきの鐘の原因じゃないだろうな」


「あはは、だったらのんびり売りに来ないさ」


「それもそうか…… で魔石は?」


「ああ、でっ、何個買ってくれるんだ?」


「はぁ? お前さん、そんなに拾ったのか?」


惣一郎は取り敢えず、魔石を5個カウンターにならべる。


驚く店主が、目を丸くして魔石に目を奪われる。


「い、いや、こんなには買い取れんぞ……」


高額の回復薬の元だ、一個でも高額なのだろう。


蟲の遺体は稀に売られるらしいが、蟲同士魔石を狙って喰い合うのだ、その魔石が無事なのは奇跡に近い。


蟲の死骸も残骸がほとんどというし、丸々一匹無事なら大型で金貨1,000枚近くで売れる。


回復薬の大も、同じぐらいの価値だ。


「コレ一個ならいくらだ?」


惣一郎は出した魔石の中でも一番大きい物を指差す。


「大型の魔石なんて滅多に手に入らんからな…… 金貨5,000枚は軽くするだろうが、ウチじゃ無理だ。こっちの小さいのなら金貨300枚で2個買おう」


蟻の魔石だろう、小さいの物だった。


惣一郎はそれを数百個収納している。


迂闊に出せないな……


「店主、少し教えて欲しいのだが……」


惣一郎は、魔石で一個で回復薬をどのくらい作れるのかを聞く。


魔石大 回復薬が約 小60個 中10個 大4個


魔石小 回復薬が約 小10個 中2個


との事。


魔石小は、隷属した蟲からも取れるし、傭兵団でも倒せるので、割とポピュラーなのだが、回復薬大は、小が何個あっても作れず、魔石大からで無いと作れないので貴重なのだそうだ。


それならばと惣一郎は、現物交換を提案する。


「この魔石大を、回復薬大と交換しないか?」


「しかし店の在庫が3つしか無いのだ、それではそちらが相当損をするが」


「ではこの小は2個言い値で売ろう。この大一個は、回復薬大3つと回復薬中以下そちらで用意出来る数で譲ろう」


惣一郎は、魔石大一個と魔石小2個を渡し、回復薬大を3つと中を7つ、小を12個と交換する。


「すまんな、ウチじゃコレで精一杯だ。もっと大きな街なら残りも売れるのだろうが」


「いえ、元々回復薬大が欲しかったので、丁度良かったんです」


「ちなみに、魔石からは他に何が作れるのですか?」


「一般的なのは、砕いて陣を描く物に多く使われておるの〜」


「なるほどね〜 助かりました。ではコレで」


回復薬を手に入れた惣一郎が店を出る。


さて、この後どうするか……







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