十話【奇妙な同居人】
ポカポカに温まった惣一郎が、ガラス張りのリビングに大きなソファーセットを置き、ビールを飲む。
スワロはレモン酎ハイが気に入っている。
床から生えた枝は、器用にお猪口で日本酒を飲んでいた。
「コレは美味いぞ、惣一郎!」
枯れ木の貴婦人が頬をピンクに染めながら飲んでいた。
「なぁドリー、一緒に住むのは良いがルールを決めよう」
「ほう、制約を交わすのじゃな」
「そんな所だ。まず、寝室には絶対に入るな!」
「別に覗いたりせんが、まあ良い。約束しよう」
「あと、誰かが入っている時に、風呂とトイレに出るのも禁止だ!」
「何とも、繊細なのじゃな其方は……」
「わかったのか?」
「ああ、約束しよう。其方らが入ってる時は厠と浴場には入らんと誓おう…… おや!」
「ん?」
「またあの蟲じゃ。木々が騒いでおる」
外はすっかり暗く、ガラスは室内を写すだけだった。
「近いのか?」
「いや、大分離れておる」
じゃ、いいか……
「しかしコレ、外からはコッチは本当に見えないのか? 明かりとか」
「さよう、木の中は外界と繋がっておらん別次元じゃ。こちらから見えても向こうからは見えんよ」
何とも不思議空間……
「其方の魔力があれば、もっと広く、この木の中に町の一つも作れるじゃろ」
マジで……
「凄い、町持って歩けるのか」
驚くスワロ……
翌日、こうして奇妙な同居人を迎え、旅を続けていく事になる惣一郎は、北にあるルルリカ街を目指し、のんびりと歩き始める。
「なぁドリー、ダンジョンってあるのか?」
惣一郎はポケットに話しかける。
「だんじょん? 何じゃそれは?」
ポケットが答える。
やはりこの世界にダンジョンはない様だ……
しばらく歩くと、真新しく木が倒れた跡がある。
昨夜ドリーが言っていたのは、この辺りだろうか?
サーチの反応は…… 近いが、多い。
近付いて行くと、倒れた厄災に大きな蝿が群がっていた。
木を薙ぎ倒したのは、この死骸なのだろうか?
惣一郎は殺虫スプレーを取り出し、振り撒きながら近付く。
バタバタと倒れる蝿の厄災。
1m近い体をひっくり返し、脚を畳み死んでいく。
飛び立つ蝿も、瞬間移動で前に出てスプレーを吹きかける。
あっという間に十匹近い蝿が転がる。
蝿が群がっていた厄災は、大きな緑色のバッタであった。
先の尖った顔は、半分くらい蝿に喰われていた。
コイツが蝿にやられた気がしない惣一郎。
近くを見渡しサーチを広範囲で広げるが、反応は無かった。
昨夜のうちに飛び去ったのかも知れない。
蝿を収納しているとスワロが、バッタに魔石が無いと言い出す。
胸に大きく齧られた痕。
魔石部分だけを食べていった様だ。
惣一郎はバッタも収納する。
「主人の収納スキルに限界はないのか?」
至極真っ当なご意見。
だが惣一郎にも分からなかった……
「ほぉ、そんなに蟲の死骸を持っておるのか?」
ポケットから声が聞こえる。
「ああ、割と増えて来たな〜 蟻が大量だ」
「木に与えれば良かろう……」
「えっ、蟲の死骸食べるのか?」
「土に還る物は全て養分となり、木も大きく成長していくのだぞ」
「へぇ〜 そうなのか…… まぁでも、死骸は売れるし、魔石も残して置きたいんだ」
「好きにするが良い…… 手に余るならと思って言ったまでじゃ」
「そうか、ありがとう」
スワロはポケットと話す惣一郎がどこか可笑しく、クスクスしながら後を付いて歩き出す。
惣一郎は途中、鹿の様な生き物を見かけるが、グルピーもオークも出ない森に、どこか違和感を感じながら歩いて行く。
「そろそろ飯にするか」
「ああ、お腹ぺこぺこだ!」
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