九話【飼い主の責任】

取り敢えず事情を説明し、惣一郎はみんなに食事を振る舞う。


枯れ木の貴婦人は…… ひどく落ち込んでいた。


「見た目はアレだが、何て食欲をそそる香りだ」


「見た目はアレだが、凄く美味しいわ!」


「見た目は……」


うるせーよ!


カレーは大人気で、おかわりで腹を膨らましていくエルフ達。


「凄く元気が出ますね……」


「ああ、力が漲る!」


惣一郎はふと自分らだけで厄災を倒すのではなく、この世界に武器を流せば、厄災の数を減らす事は簡単なのでは無いのかと思う。


厄災も前ほど強くもないし。


そう言えば解体する時、厄災に通用する武器を使っていたか……


「なぁ、これだけ人数いれば蟲を倒せたんじゃ無いのか?」


「無理言わないで下さい! 我々では倒すどころか餌になるのがオチですよ」


「ああ、傭兵団ならともかく……」


ふむ…… 意識の問題なのか?


「今回は運が悪かったが、ツリーハウスに住む我々が見つかる事はありませんし、争いは好みません」


「それより惣一郎殿。アレ…… どうするおつもりですか?」


離れて、いじけているドライアドリス。


まぁ、同情はするが……


続けてダークエルフ達は、ウチじゃ飼えないから遠くに捨てて来て欲しいみたいに、言い出す。


犬じゃないのに…… 


流石に可哀想になる惣一郎。





「惣一郎さん、助けて頂き、本当にありがとうございます。街へは北に2日ほど行けば分かると思いますので、お気をつけて! 我々も旅の無事を祈っております!」


「ああ、みんなも元気でな!」


惣一郎はエルフ達に、殺虫剤の入った瓶のいくつかを、もしもの時に使う様に説明して渡す。


手を振り森に帰って行くエルフ達を見送ると、惣一郎は、種を出し地面に置くと、周りに馴染む大きさの木になる。


「凄いな、コレなら確かに分からん!」


まだいじけているドライアドリス。


「ほれ、入るぞ!」


惣一郎の言葉に枝で出来た髪が答え、ツリーハウスの中に入って行く。


やはり中は外見とは別世界の様に、大きく広がっている。


惣一郎が入った瞬間に中の明かりがつき、木が喜んでいる様に感じた。


何気無く「ただいま」を言う惣一郎が、階段を登って行く。


ドライアドリスはいつの間にか、姿を消していた。


「何だか疲れたな、主人よ」


「まぁ、寝てないしな。今日はもう風呂に入って寝よう」


テントと違い家に帰って来た感覚が、ふたりの疲れを癒す。




脱衣所で服を脱ぐと、当たり前の様に惣一郎の服を畳み、カゴに入れ自分も脱ぎ出すスワロ。


もう、一々動じません!


クリーンをかけてあるので、軽く桶で体を流し、湯船で足を伸ばす惣一郎。


入浴剤は秋田のにごり湯。


髪をかき揚げ、束ねるうなじが色っぽいスワロ。


一面に広がる景色は、何故か森を一望出来る高さで、夕陽が沈みかけている景色が一望できる。


癒しの時間である……


「この湯は、なぜ白いのだ?」


コイツがいなければ……


「なぁ[ドリー]」


「どりー?」


「長いからドリーと呼ぶ事にした。それでここで何してんのよ」


「いや其方らこそ、湯に浸かり何をしておるのだ?」


「癒されたいの! 邪魔すんなドリー」


「ドリーか…… もう少し妾に似合いそうな名が……」


「除草剤撒くぞ!」


「わ、わかったのじゃ」


石の床に沈み消えるドライアドリスのドリー。


「何だかんだと主人は優しいな!」


そう言いながら肩を寄せてくるスワロ。


温かい湯船から沸き立つ湯気が、夕陽に照らされていた。






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