十話【3人の想い】
惣一郎はベンゾウと弁慶を呼び出し、広場を離れる。
離れた広場は、子供達と戯れる精霊イフリートの火で、祭りの様に煌びやかに映る。
「どうしたのだ旦那様。戦いの前にムラムラしたのか?」
アホが……
「ベンゾウ、弁慶。色々助けてくれてありがとな…… 死んだのにこうしてまたふたりに会えて、本当に嬉しかった……」
「なっ、なんの話だ旦那様!」
「この戦闘が終われば、みんなが来た次元の扉が閉じ始める」
「待て旦那様! 一緒に帰るんだよな? この世界も救ってみんなで帰るんだろ!」
「俺とスワロはもう死んだ人間なんだ。向こうには戻れない…… こうして別の世界で生き返ったこと自体が奇跡なんだ」
「ベンゾウは残るよ。ご主人様とずっと一緒にいる」
ベンゾウ……
「アタイだって、アタイも一緒に残るぞ! こっちでまたみんなで一緒に暮らしていけば」
「弁慶! ベンゾウもまだ向こうでやる事があるだろ。厄災だってまだ残ってる」
「ベンゾウ、帰らないよ!」
「旦那様……」
「俺だってふたりと別れるのは、辛い……よ……」
「ご主人様……」
「ふたりは知ってるだろ? 元々俺はあの世界の人間でもない…… 俺がいた世界はダラダラと、ただ生きて来た平和なだけのそんな世界だ。その俺があの世界でベンゾウに…… ふたりと出逢い助けられたから、危険なあの世界が好きになれたんだ。ふたりには感謝してる。だからあの世界からふたりを奪う訳にはいかないんだ!」
「ご主人様…… ベンゾウの事、嫌いになったの…… だからそんな事言うの……」
泣き出しそうな顔のベンゾウが、出逢った頃の少女に映る。
ベンゾウを抱きしめる惣一郎。
一本しかない腕を伸ばし、弁慶も抱き寄せる。
「そう、思うか?」
「…… ごめんなさい」
「旦那様ぁ……」
この異世界での危機に、再会を求めた惣一郎。
信じ続け、再会を果たしたベンゾウ。
最愛の死から目を背け、無理矢理前に歩き始めた弁慶にも、また再会できる奇跡が起きた。
[また逢いたい]は、共通の想いだった。
それ以上言葉はいらず、3人は繋がる……
急な別れをすでに経験した惣一郎は、ふたりにありったけの感謝と後悔のない別れを……
過去の別れを受け止め切れず、立ち止まっていたベンゾウの欠けた心が埋まって行く……
重い足で前に進もうと歩いて来た弁慶は、無理なく進む軽い足を手に入れる……
[最愛の人は離れた場所で生きている]
それが新たな共通の想いに代わる……
空が薄っすら明るくなって来る。
子供達は遊び疲れクロに寄り添い寝ていた。
スワロもピノとの別れを済まし、肩を寄せウトウトとしていた。
広場に戻る惣一郎達。
丁度、ミネア達が陣を描き終えた様だ。
「別れは済んだか」
ホルスタインに刀の握りを教えていたツナマヨが、戻って来た3人に話しかける。
「ああ、寝てない所悪いが、向こうも気が抜けている頃合いだ。始めるぞ!」
惣一郎の吹っ切れた顔に、広場に居た全員が眠気を飛ばし、気を引き締め直す。
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