二十二話【短気なミコ】

月をバックに現れたシルエットは、女であった。


「貴様らここで何をしている!」


長い耳のシルエットからエルフである事に気付く。


「何って…… こっちのセリフ…」


ミコが言いかけた瞬間、ガオが横からミコを突き飛ばす!


不意を突かれ、無様な姿で転がるミコが、


「何すんだガオ!」


っと、姿勢を立て直し構える。


ガオは脇腹からの出血を抑え、苦悶表情を浮かべながらも左腕だけ構えていた。


そのガオの構えの先に、さっきまで岩山の上にいた女が立っていた。


銀髪のダークエルフ。


外壁の上からクロに掴まりガオの元に降りるセシル。


「直ぐに回復を!」


「姉弟子並みの速さか……」


ミコが両手の鉈を逆手に前に出る。


「勇者の仲間か! ここに勇者が来ているのか」


ボソボソと独り言の様に話す褐色のエルフが、ドラミの蔓に塞がれた入り口に目をやる。


この仕草にプツン!っとキレたミコ!


「なに大物ぶって無視してんだ、ゴラ!」


踏み締めた地面を蹴った瞬間、ミコの豊藤作和鋼蛇鉈壱尺が、いつの間にか変化したエルフのカマキリのカマの様な左手で受け止められ火花を散らす!


だが、受け止めたカマキリのカマは、鉈が食込み赤い血が流れ落ちる。


エルフが驚く暇も無く、連撃に繋がっていくミコの猛攻!


両手のカマで受け切る必死のエルフ!


「お、おのれ、貴様も勇者か!」


キレたミコは、両手の鉈で回る様に隙なく撃ち込みながら獣化して行くと、回転のスピードも上がって行く!


セシルの回復魔法で止血されたガオが、青い顔で吠える!


「ガオ!」


必殺の連撃に勝利を確信し口元が緩むミコが、ガオの声に反応し、一瞬で後ろに下がる!


その瞬間!


防戦一方だったエルフの開いた両足の間から、突き上げる針のついたサソリの様な尻尾が天を突く!


伸び切った先端から透明な液体が溢れ飛ぶ!


そこに夜空から星が落ちる様に、無数の光剣がエルフの頭上に落ちる!


巻き込まれない様、さらに後退するミコ!


地面のゴキブリの死骸を巻き上げ粉々にして行く光剣の雨が、光の粒へと消えて行くと、


「あっぶねぇだろ、ピノ!」


ミコが唾を飛ばしながら叫ぶと、フン!っと外壁の上で杖を下ろすピノ。


砂煙が晴れて行くと、中央にはボロボロになったカマキリの腕を下げ、乱れた銀髪で顔を隠す中腰のエルフが、やっと立っているという感じで立っていた。


ツリーハウスの中では、ゴゴ達が応援に出ようとするのをドラミが必死に止めていた。


「今出てったらユグポンの存在がバレるやろ!」


中から目の前の傷ついたガオを見てる事しか出来ない状況に、悔しがる騎士団。


「おのれ、他にも勇者がいたとは…… なるほどゲルドマがやられたのも納得がいく」


「なんだまだ喋れんのか? お前こそ何者だよ」


見る見る人の姿に戻って行くエルフ。


セシルにもたれかかるガオは、まだ立つことが出来ない。


「ロンシール、魔女を継承する者だ」


両腕から血を流すロンシールが、気にもしていない素振りで、腰に下げられた袋から黒く長い剣を取り出す。


剣は蟲の外殻や顎で作られた様な歪な物だった。


「御神体や器である女神を攫ったのも貴様らか」


銀髪をかき揚げ、剣を構えるロンシール。


ミコもまた、鉈を握り直し腰を落とす。


「攫ったのはお前らだろ!」


外壁の上で杖を構えるピノ。


警戒するクロが、セシルとガオの前に壁になる。






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