五話【ホームシック】

「ただいま……」


惣一郎が馬車を止めると、乗っていたエルフ達が家族の元へと走り出す。


4人のリザードマンは荷台の檻の中で、意識を失っている。


「惣一郎さん、本当に間に合ったんですね!」


惣一郎は疲れた顔で、


「ねぇ、馬車って言ってたよね?」


「えっ? ええ、今惣一郎さんが今乗っている馬車ですが……」


「コレの何処が馬車なのよ!」


キョトンとする、トト。


馬車の前には3m程の蟲が、荷車を引いていた。


緑と赤に白い斑点の[ハンミョウ]だった。


「えっと…… この馬が何か?」


あっそう、馬だと言い張るのね!


惣一郎は帰路の途中、買った図鑑を取り出し広げ馬の写真を見せる。


「じゃこれは、この生き物知ってる?」


「綺麗な絵ですね! コレは……[ノイコック]って魔獣に似てますが、違うものですね」


「………」


疲れた…… 風呂入りたい。






「モゴモゴ、モゴモゴモゴモゴ!」


拘束されたリザードマンが、何かを訴えている。


聞きたくない……


惣一郎は檻の中のリザードマンも拘束し、全員並べ水をかけると、目の前でククリ刀を出し回し始める。


勢い良く音を出し回るククリ刀が赤くなっていくと、地面に刺された杭を簡単に切り裂く。


「さて、今から喋れる様にするけど、俺の聞いた事以外喋ったら手足を1本づつ切り落としていくからね! わかったら頷いて」


「「「 コクコク 」」」


「まず、ここに居るエルフ全員の奴隷契約を解除してくれる?」


淡々と喋る惣一郎の周りには、次々と円盤が増えていった。


リザードマン達も恐怖から素直に従う。


ブツブツと呪文を唱え解放されていくエルフ。


最後のひとりの首から紋様が消えると、周りで槍を構えていたエルフ達が、一斉にリザードマンを刺し殺した!


「なっ、何してんだよ!」


「えっ? 惣一郎さん、このまま放っておくおつもりでしたか?」


「こ、殺す事は無いだろ……」


「コイツらはまた、同じ事を繰り返しますよ? 私達の仲間もコイツらの様な奴隷商に…… このまま逃す事は出来ません、我々の住処も知っていますし」


「………」


言い返せなかった……


ベンゾウ…… お前がいないと暗いよココは。




暗い中、松明の明かりでリザードマン達の荷物を持ち出すエルフ達。


トトが惣一郎の元へやって来て、金貨の入った箱を差し出す。


「惣一郎さん、お金はコレだけでしたが、どうぞコレは惣一郎さんが持って行って下さい」


「金貨か……」


「コレもお忘れですか? 金色のがコルト金貨、これ一枚で、町の宿なら4日は泊まれます。コルト銀貨10枚の価値と同等です」


「わかりやす…… 金貨1枚が10,000円位か」


「えん? まぁ、コレだけあればしばらくは困らないでしょう。助けて頂きこんなお礼しか出来ませんが…… 本当にありがとうございました」


惣一郎は返事もせず、トトから367Gを受け取り、手を上げて暗い森の中へ消えていく。


昼間追いかけた町を目指して。







森を出て、夜の荒野を歩く惣一郎。


こっちの世界には月の様な星が満天の星の中、一際輝き夜道を照らしていた。


ベンゾウ達と過ごしたあの世界程では無かったが、十分足元も見える。


トトの言い分も分かるし、今更、惣一郎が言える事じゃ無いのもわかっている。


盗賊なら、向かってくるなら殺していただろう。


ただ、その罪悪感をひとりで受け止めるには重いのだ。


ベンゾウ……





ふと見上げた空の月に、厄災の影が映る。


「こっちじゃ厄災も、24時間営業か……」






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