三話【定員1名】
「まさか、この魔力は……」
驚く犬神。
「嘘だろ……」
覚えのある魔力に涙を流す、弁慶。
セシルは砂浜に両膝を突き、祈りのポーズで渦を見上げる。
さっき帰ったサーズリが、遠くで驚き立ち止まり、声を失う。
慌てて外に出て来るギド。
手に持つ酒瓶からは、中身がこぼれていた。
『ベンゾウ!』
溢れ出す涙を堪えきれず、渦を見るベンゾウ。
『聞こえるか? ベンゾウ』
「聞こえる… 聞こえるよ! ご主人様!」
その声に驚き、ベンゾウを見る弁慶とセシル。
だがベンゾウの返事は、惣一郎には届かない。
『ベンゾウ、聞こえてるものとして話すぞ!』
「うん!」
『俺は死んだ後、別の世界も救う様にと頼まれ、厄災のいる世界に来ている! そっちと似た世界だが、厄災だらけだ! こっちの厄災の数を減らさないとまた、そっちの世界に溢れてしまうかも知れない!』
「うん!」
『ベンゾウ! また助けてくれるか?』
「うん! 当たり前でしょ!」
『もし、助けてくれるなら、ミルドラを倒した厄災の島に3日後、また次元を開く! 多分通れるのはベンゾウだけだ!』
「うん!」
『だが、無理はするな! 無理なら3日後、島には近付くな!』
「行くに決まってるでしょ!」
『弁慶にも済まないと伝えてくれ! お前の力も借りたかったが、ふたりは無理だと! 全部終わったら、ベンゾウはちゃんと返すと!』
「うん!」
『3日後!』
「うん! 待ってる!」
ベンゾウの言葉を最後に、空が晴れていく。
涙と鼻水でくしゃくしゃの顔を手で隠し、肩を揺らし砂浜で座り込むベンゾウ。
「はっ、話したのか? 旦那様は、旦那様はなんだって! ベンゾウ! 教えてくれ、旦那様は生きてるんだな!」
「うん…… いぎでだ… いぎでだよ〜」
力が抜ける様に膝を突く、弁慶。
クロは惣一郎の魔力とは別に、薄っすら感じた懐かしい魔力に、混乱する……
駆け寄るサーズリ。
だが、泣いて話が聞けないベンゾウと弁慶に、何が起こったのか聞けず、慌てる事しか出来なかった。
そしてセシルは、また奇跡を目にし祈り続ける。
「まさか厄災の来る、向こうの世界にいただなんて……」
話を聞き、驚くサーズリ。
「旦那様がこれ以上、こっちに厄災が来ない様に向こうで戦ってくれていたんだな」
「死してなお、私達の為に……」
白髪の淑女が祈りを捧げると、白い犬神が話しかける。
「行くのか? 惣一郎の元に」
「ああ、ベンゾウは今でもご主人様のモノだ!」
「アタイは! なんでアタイは行けないんだ! どうしてアタイには旦那様の声が聞こえなかったんだ!」
「弁慶の事も気に掛けてた! ベンゾウにだけ聞こえたのは、コレのおかげ!」
手首のレーテウルは、もう光りを失っていた。
「アタイも行くぞ!」
「ひとりしか無理なんだって!」
「どうして!」
「デカいから?」
「ベンゾウ! なら足を切れ!」
ケラケラケラ。
「やれやれ、すっかり元気を取り戻した様だな。だが、惣一郎がそうまでして助けを求めて来たのだ。危険は覚悟して行くが良い」
「うん、クロ! お土産買ってくるね」
「くっそ〜 なんでアタイは行けないんだ!」
「弁慶殿、みんなして行かれても困ります! 厄災の出現が少なくなっても、今やジビカガイライは冒険者のトップチームなんです! ショウニカガイライだけでは、あの数の特級依頼を捌けません!」
「ですが、ベンゾウさんが居なくなると私達だけでは、厳しいのでは?」
「リーダーだろ! やっぱ、アタイが代わりに行くよ! 3日で痩せてやる!」
「ワイドンテが解散するそうですから、私から、何人か臨時に応援に来れないか、あたってみましょう」
「ああ〜 クソ、ベンゾウ! 全部終わったら必ず、旦那様も連れて帰ってくるんだぞ! 約束だからな」
「うん! 任せて、弁慶」
だが3日後……
島で待つベンゾウに、迎えが来る事は無かった。
話を聞きつけ集まったツナマヨやミコ達も、見送りに来ていたが……
「サーズリ、本当なのか? 惣一郎殿が生きていたと言うのは」
「おいおい、何も起きねぇじゃね〜か!」
「ガウ!」
空を見つめ続けるベンゾウ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます