十三話【茶番劇】

「続けるか?」


ゴゴの声に、地面で天を仰ぐキッドがゆっくりと立ち上がる。


「へっ、俺とした事が勢い余って転ぶとは、運がいいなあんた」


アホや……


ドラミの顔が恐怖に固まる。


次に現れたのは両手に鎌を持つ鱗族、ドラゴン。


こちらも惣一郎の出した[仙台守鍛造鉈鎌]をドワーフにより2本を鎖で繋いだ物だった。


鎌にはカバーがかけられたままだった。


「惚れた女の前でこれ以上醜態を晒す訳にはいかねぇ! 悪いが本気でいくぜ」


背中の紋様が光り、シャドウを始めるキッド。


明らかに風を切る音が変わる。


表情が読め無いドラゴンが、ジャラっと鎌を構える!


軽快なステップで近付くキッド。


ジャブで距離を測るキッドの手数が増えていくと、拳が何本にも見える!


だが、ピット器官を備えるドラゴンに目眩しは通用し無い!


ヘビに見られるピット器官は赤外線で熱を捉える!


それを持つドラゴンには、残像と本物の微妙な熱の差が読み取れる!


あっさり拳に引っ掛けられた鉈鎌に軌道を逸らされ姿勢を崩すと、首に別の鎌がかけられ、前のめりに地面に頭を落とす。


「そこまで!」


「もういいよ! がっかりだ」


地面に両手を着くキッドが、顔を上げる。


「もう少し使えると思ったけど、がっかりしたよ。君めちゃくちゃ弱いね」


「なっ! 待て今のは」


「ゴゴ! ドラゴンの騎士の序列は?」


「はっ、はい。7人中6位です」


「はぁ、これじゃ訓練にもならないよ、それなのにその自信は何処から来るのよ? 恥ずかしく無いの?」


「いや、今日は調子が……」


「言い訳ばっか! それでよくスワロに惚れただなんて言えるね〜 この騎士達全員でも敵わない相手よ」


「そ、それは……」


「多少でも強ければ、騎士の見習いとしてチャンスをあげようかと思ったんだけど、これじゃぁねぇ」


「まっ待ってくれ! まだ本気を出してないだけなんだ!」


「いやいや、蟲相手にそれ言えんの? 死んだら終わりよ?」


「い、いや……」


「そんな奴と、誰が一緒に命かけるのよ!」


「………」


そこにゴゴが、話しに割って入る。


「惣一郎様、確かに性格に問題があるが、タイガの初撃を躱した反応速度、ドラゴンに見せた素早い動きは、鍛えれば使えるかも知れません」


「その性格が一番の問題なのよ! 女を前にいい所見せようと格好つける奴は仲間を危険に晒すし、負けも認められない奴は、自分を伸ばす事も出来ないでしょ? 鍛えるだけ無駄なのよ」


「ック………」


「えっと次は…… そうだ。分かりました。では村の外に……」


「待ってくれ! なんでもする! 雑用でもなんでもするから鍛えてくれ! 必ずこの騎士で一番になって見せる!」


「村には女性が多い、お前の存在が輪を乱す!」


「序列一位になるまで、女とは絶対に話さない! だから、頼む!」


ドラミはさらに驚愕する!


『アホや… ほんまもんのアホや! まんまと惣一郎の策に嵌りよった!』




「「 ……… 」」


「あっ、次俺だ。 ゴホン! じゃこの村の序列最下位からでも構わないと言うのだな!」


「ああ、もう言い訳はしない。必ず這い上がって見せる!」


「ではゴゴ! 面倒を見てやれ。絶対服従だ。次に言い訳をしたり弱音を吐いたら即、村を追放しろ」


「仰せのままに!」


惣一郎に頭を下げるゴゴ。


真似て地面に頭をつけるキッド。


去っていく惣一郎にベンゾウが、


「ご主人様、茶番は終わった?」


っと、お菓子を食べながら抱きつく。


コイツ……







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