十二話【通じ無い相手】

「おいおい! 何もそこまで」


「止めるな主人よ! 我慢の限界だ」


「代わろうか、スワロ?」


ややこしくなるから、やめなさいベンゾウ。


「俺は構わないぜ! あんたらふたりを倒しても同じ事だ」


うわぁ〜 痛い子だ。


コイツの自信は何処から来るのだろうか?


「あんなキッド。お前がそこそこ強いのは、その蟻で分かったが、怪我じゃ済まなくなるぞ?」


「愛に危険は付き物だ!」


ああ、本当言葉が通じない……


街で嫌われる意味が分かったよ。


「スワロ、下がれ」


「あ、主人よ… 私の為に?」


鉄球を浮かせる惣一郎が、前に出る。


「ご主人様の敵なら、ベンゾウがやるよ!」


「ベンゾウ殿がやるなら、私自身でケリをつける!」


「こっちで揉めてどうするのよ! ふたりは下がってろ」


「やっ! ベンゾウもちょっと嫌いだからベンゾウがやるよ」


「ふたりの手を煩わせる相手では無い! 私が」


「カッコ付けて出て来た、俺の立場がないでしょ!」


「3人相手でも構わないぜ! 俺が勝てば魔女は俺のものだ!」


「「「 黙れ! 」」」


3人の覇気にあてられ、固まるキッド。


街で簡単に背後をベンゾウに取られた事、忘れてるのだろうか?


結局イラつくこの馬鹿を、誰がいじめるかジャンケンで決める事になる。


結果は、サーチで感覚を研ぎ澄ました惣一郎を、あっさり見切ったベンゾウだった。


「なんかずるい…… 運勝負じゃ無い気がするぞ!」


「クソ! 出す瞬間、変えやがった」


「ケラケラケラ! ベンゾウの勝ちだね!」


呆気に取られ、固まるキッド。


ベンゾウが前に出ると、背中の紋様を光らせ、両手の拳でガードしながら低く、覚悟を決めた一歩を踏み出す!


「恨みは無いが、愛の為だ!」


ボクサーの様に下から繰り出すアッパーが、ベンゾウの顔をすり抜ける!


容赦なく女性の顎を狙った拳は、振り抜かれたままだった。


ベンゾウの足の裏にへばり付いたキッドの顔は、白目を剥き、ゆっくりと後ろに倒れる。


「えっ、終わり?」


ベンゾウの方が驚いていた……


「阿保! それじゃキッドも覚えて無いぞ!」


「あぁ〜 これじゃまた来るぞ、この男……」


「えっ、だってベンゾウまだ何も!」


無駄な時間だった……








キッドが目を覚ましたのは、木の枝が格子状に伸びる檻の中だった。


高い天井付近に作られた換気口にも枝が張り巡らされ、陽の光を檻の中に落としている。


「起きた様だな」


白髪の魔族の女性が、食事を手に持ち檻の前に立っていた。


「ここは……」


「食事だ。檻は開いている。食い終わったら外に出るがいい」


床に置かれた料理は惣一郎に言われ、メイド達が作ったこの世界のものだった。


キッドは思い出せないこの状況で、ゆっくりと噛んで出された料理を食べ始める。


ストレスを感じないタイプだ。


床の帽子を拾い上げると、檻を開け外に出るキッド。


広がる中庭には虎の獣人タイガが、鋼色の棒を持ち、身体を揺らし温めていた。


周りにも武器を持った者が数人おり、奥に置かれたベンチテーブルでは、惣一郎達がお茶を飲んでいた。


徐々に集まる村人達。


「おお、魔女よ!」


スワロに気付くキッドに、ゴゴが話しかける。


「スワロ様に気安く話しかけるな! ここは勇者の村だ。出て自由になりたくば、我らの中ひとりでも倒す事だ!」


言い終わるとタイガが、ブンブンと長い金属の棒を振り回し、前に出るとピタッと棒の先をキッドに向ける。


棍を得意とするタイガに、惣一郎が用意したチタン合金の棍。


硬い金属の割にしなりがあるチタン合金に、ドワーフ達とミネアの協力で作り上げた棍。


「へへ、愛の試練か」


やっぱり馬鹿だ……


拳を構え、フットワークを始めるキッド。


まんまボクサーだった。


対して、ピタッと動かないタイガの棍だけが伸びる!


キッドからは死角になる、向かい合ったタイガの背後の右腕だけで打ち込まれた棍は、急に伸びた様に見えた!


だが、キッドも素早く反応し、棍を潜る様に間合いを詰める!


するといつの間にか体勢が逆になっているタイガが、今度は左腕で棍を突き出し、キッドの踏み出した膝を打ち抜く!


そのまま届かないパンチを繰り出すキッドは、軸を失い、背中から地面に倒れる。


「そこまで!」


ゴゴの声に、ピタッとキッドの顔の前で止まる棍。


タイガは静かに、仲間の元へ戻っていく。






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