二話【ここに来た理由】
先を行くスワロに追い付くと、木の陰に隠れているのか、尻を突き出していた。
「何してんだ?」
「しー、あれ!」
木の向こうには蟲の死骸をせっせと運ぶ、大量の蟻が列を作っていた。
「あら、蟻の行列か……」
一匹1mを超える大きな蟻が、大きなカブトムシだったであろう残骸を、せっせと列をなし運んでいた。
スワロは小声で「どうする主人よ」っと、木に寄りかかり尻を向けたまま言ってくる。
まぁ、ほっとく訳にもいかないでしょ。
惣一郎は理喪棍を浮かせ尻を乗せるとスワロを乗せ、空高く飛び上がる!
スワロは、驚き声をあげそうになるのを手で押さえ堪える。
『飛んだ……』
惣一郎は上空から蟻の列の先頭を探し始めると、理喪棍に乗ったままその先へと飛んでいき、空から蟻を巣ごと駆除する薬をばら撒く。
蟻がそれを咥えて行くのを確認すると地面に降りる。
「惣一郎殿、飛べたのか!」っと、興奮するスワロ。
興奮して[殿]に戻ってるぞ…… 主人もどうかと思うが……
「ああ、薬を撒いた。明日には巣ごと全滅してるだろう」
「えっ、そうなのか?」
「まぁ、様子も見たいし今日はこの辺りで休もう」
惣一郎はそう言うとテントを出し、中に入って行く。
まだ陽は高かった。
テントでお茶とお菓子を出し、呑気にお茶を楽しみだすふたり。
「スワロ、コッチの厄災は以前向こうで遭った厄災よりも、弱いかも知れん」
「なっ、私が強いんじゃ無いと言うのか?」
いやまぁ、強いけど……
「次元を超えて別世界に行った蟲は、向こうで人や魔獣を襲っただろ? 俺が出した食事を摂るスワロと一緒だと思うんだ」
「あっ…… そう言う事なのか……」
多分……
「まぁ、それでも厄災だ! 十分脅威なのは間違いないが」
「そうだな…… いや済まん、いい事だな!」
そう、いい事なのだ。
だが、落ち込むスワロ。
「浮かない顔だな……」
「いや…… 私はこの世界でやっと、ベンゾウ殿と肩を並べられたと、勝手に思い込んでいたのだ…… それが少し恥ずかしくてな」
「いや、十分強いと思うぞ? 間違いなくベンゾウと並ぶ強さだと思うが」
「済まぬ主人よ、大事な使命があるのに私は…… どうしても比べてしまうのだ、あの強さに」
「対抗心があるのは別に悪い事じゃ無い。いいじゃ無いか、スワロはまだまだ強くなれるし!」
「本当か?」
「ああ、だから気にすんな! あと主人はやめろ」
「フフフッ、これはやめられないな主人よ」
「何で? 殿より酷くなってるじゃ無いか」
「私は奴隷だ、だが主人は奴隷と見ないだろ? ならば私は父の様な騎士になる。剣は魔法でしか使えんが、主人に仕える騎士になると決めたのだ! だから諦めよ、我が主人よ」
「あっ、そう…… 騎士ね……」
惣一郎はスワロの性格上、一番厄介な選択では無いかと、心の中で思う。
厄介事にすぐ首を突っ込みそうだ……
翌朝、食事を済ませたふたりは、蟻が向かった先に見つけた巣穴へと向かう。
案の定、巣穴の周りには無数の蟻が脚を畳みひっくり返っていた。
「これは…… これも主人の毒の効果なのか? 相変わらず凄まじいのだな……」
よく効いた様だな、あのサイズで。
巣穴は直径1,5m。
入れない事も無いが、入りたく無い惣一郎は、理喪棍を向けサーチを飛ばす。
「……… 良し、みんな死んでるな」
「主人よ、この大量の厄災全部から魔石を取るのか?」
そうね…… どうしよう?
蟻の魔石が幾ら位かは分からないが、この量じゃ間違いなく騒ぎになるな……
「巣穴の中は、見なかった事にして、外のだけでも回収はしとくか。他の奴に拾われても面白くないしな」
「ああ…… 分かった」
まぁ死骸もそのままだと、他のが寄って来そうなので、全て惣一郎のアイテムボックス行きになるのだが……
その数466匹。
巣穴を埋める惣一郎を見ながら、スワロは[世界]が主人を呼んだ理由が、少し分かった気がした……
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