六話【悪夢再び】

飛び散ったバラバラの蟻の死骸から、魔石だけ回収するのが面倒臭いと悩んでいると、村の人達がゾロゾロとやって来る。


「惣一郎さん… あんた本当に勇者なのか……」


「ブラギノールさん、怪我人は?」


「えっ、ああ、皆無事だが……」


村人と一緒に来たブラギノールさんも、崩れた外壁から森の惨状に言葉を失う。


まるで惣一郎が、蟲の大群を森ごと破壊した様に映ったのだろう。


バラバラの原型を留めない蟲の死骸と、無数の地面に刺さる金属の棒に……





異臭を放つ森を槍を回収しながら歩く惣一郎と、魔石を拾うマスク姿の仲間達。


村人に魔女崇拝者に狙われている事情を話し、今回の件を内緒にしてもらおうと説明するミネア。


蟻の大群に襲われた小さな村の住人約70名は、奇跡的に誰ひとり欠ける事なく済んだ事に、ミネアの言葉を心良く受け入れる。


「ブラギノールさんが勇者様を連れて来てくれなかったら、我々の村はあの森の様になっていただろう…… ありがとう」


「いえ私もまさか、惣一郎さんが勇者だったなんて……」


感謝の言葉は何故か、ブラギノールさんに向けられていた。


ドラミが外壁を丈夫な木の根で補強し直すと、惣一郎は、


「悪いが先を急ぐので、俺たちはこのまま北に向かうよ」


っと、軽く挨拶して立ち去ろうとする。


「お待ち下さい! 事情はわかりました。やはり北のエノルガス大陸に向かうのおつもりなのですね」


っとブラギノールさんが、先を急ぐ惣一郎を呼び止める。


「ええ、手がかりが今、そこしか無くて」


「1日だけ待ってください。大陸に渡る手立てに心当たりがあります。明日私がご案内致しましょう! きっとお役に立てるかと」


船に心当たりでもあるのか?


力強いブラギノールさんの言葉に、惣一郎は話を聞く事にする。




村で感謝の宴をすると言い出し、陽もまだ高いうちから次々と料理が運ばれて来る広場で、歓迎を受ける惣一郎達。


ブラギノールさんは村に薬を卸し、薬の材料になる植物や木の実を大量に仕入れていた。


驚く事にブラギノールさんは、マジックバックを持っていたのだ。


昔知り合いから安く譲り受けたそうで、そのおかげでこうして薬を売る旅をして来れたという。


村での用事を済まそうと忙しそうなブラギノールさんに、まだ詳しく話を聞けずにいる惣一郎は、仕方がないと村人の料理に手を伸ばす。


ベンゾウには始めから、遠慮がない……




「お待たせしました」


用事を済ませたブラギノールさんが遅れて来た頃には、すっかり陽は落ち始めていた。


村人の感謝の言葉と勧められた酒に、すっかり良い気分だった惣一郎は、自分にキュアをかけ冷静に戻る。


「村の料理はお口に合いましたかな?」


「ええ、どれも美味しい! それで早速なのですが、大陸を渡る手立てとは?」


正直惣一郎は、船がダメなら頑張って飛ぼうと思っていたのだが、大陸までの距離もわからずにいた。


「惣一郎さんはエノルガス大陸について、どこまでご存知ですか?」


「転移屋どころか町も無い過酷な環境という事ぐらいしか」


「確かにそう言われております。ですが人が住んでいない訳では無いのです。私も過去に2度程、向こうに薬を届けに行った事がありまして」


惣一郎も魔女崇拝者達グルミターナが、アジトにしていると思っていたので驚きはなかった。


レーテウルが落ちてたんだ、奴らがいる事は間違いないだろう。


「ですが、船で渡るにはひと月はかかりますし、途中潮の流れが激しく、無事にたどり着けるとも限りません。今では大陸まで船を出す港もない状態です」


「ブラギノールさんは、そんな大陸にどうやって?」


「季節ごとに大陸を渡る種族がいるのです。その種族に過去、助けをを求められて薬を届けた事がありまして」


「大陸を渡る種族?」


嫌な予感がして来たぞ……


「はい、翼を持つ種族です!」


はいでた…… 鳥人。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る