二話【祭ごと】

見送った惣一郎が村に帰ると、ベンゾウとスワロが正座し、まだドラミに説教を受けていた。


見上げると、惣一郎の住むキッチンの一部に大穴が空いており、ドワーフ達が髭を撫でながら悩んでいる。


「ただいま、直りそうか?」


「あっ、おかえりご主人様!」


「だぁコラ! まだ説教の途中や! つかスワロお前、目瞑って反省しとる様で寝てるやろ!」


「………………………おっ、おかえり主人よ!」


寝てたな……


「お前ら、ユグポンの一部は再生を待たな治らへんのやぞ! 髭面のチビが作ったもんとはちゃうねんど!」


チビって……


「まぁそう、目くじらを立てるなドラミ殿。ベンゾウ殿も反省している」


「ど、ど、どこがやアホ!」


惣一郎に抱きつくベンゾウ。


姿勢良く正座をするスワロが、スッと立ち上がり、膝の埃を払いながら、


「さっ、主人よ、疲れたであろう。お茶でも淹れよう!」


っと、惣一郎に抱きつくベンゾウの腕を掴む。


「なに、スワロ? またやられたい?」


「ほぉ、やられた覚えは無いが、ベンゾウ殿。主人は疲れているのだ。いい加減、降りたらどうだ?」


「ベンゾウ、グラビティーの魔法で軽くなってるもん。ご主人様重く無いよね〜」


いや確かに、重さは感じないが……


「主人の重荷になってると言っているのだ」


黒い魔力が吹き出すスワロ。


「ええ加減にせ! まだ説教の最中や言うとるやろ!」


「ベンゾウ、スワロ! ドラミの言う通りだ。いい加減にしろ!」


オロオロするミネア。


「お前ら急にどうしたんだ、あんなに仲が良かったのに」


「主人よ、正妻はどっちなのだ?」


はい?


「ベンゾウでしょ! スワロ前にコイチの村で愛人って言ってた!」


「昔の話だ! 今主人を思う気持ちはベンゾウ殿にも負けん!」


「アホ、惣一郎の性はウチのもんや!」


「気持ちなら私も……」


赤くなるミネア。


ややこしくなってきた……


「待て待て、正妻って、お前ら奴隷じゃん」


「ご主人様ベンゾウ奴隷だけど、奥さんでしょ!」


「愛の奴隷だ!」


「せや、正式に決めようやないか! 誰が本当の惣一郎の女か!」


「「「「 おおおお〜 」」」」


変な方向に盛り上がり出した村人。


奥の畑からも集まりだす女性陣。


会場作りに走りだすドワーフ達。


ゴゴとジジはニヤニヤと腕を組み、傍観者気取りであった。


モテ期は素直に嬉しいが、違う……


コレじゃない……


異世界に来るまでモテた事がない惣一郎は、戸惑いながらも、この状況は俺を景品に、盛り上がってるだけだと勘を働かせるのである……








「では第一回、惣一郎様の嫁は誰だ! 勇者惣一郎の正妻決定戦を始めます!」


「「「「「 おおおおお〜 」」」」」


惣一郎の勘は当たっていた……


「司会進行は、わたくしローズが務めさせて頂きます!」


「「「「「 おおおおお〜 」」」」」


盛り上がる中庭の食堂で、忙しなく酒や食べ物を並べるメイド達。


子供達は意味も分からず、お菓子を片手に声を上げる。


簡易に作られたステージの様な台の上で、豪華ぽいだけの椅子に座らされる惣一郎。


メイド服のまま、調理器具のおたまを握り、ノリノリのローズ。


激しく動くたびに、胸が溢れそうなエルフが、


「では、候補者を紹介します! まずは我らがメイド長、ミネア!」


「「「「「 おおおおお〜 」」」」」


村が出来てからみんな良く働き、住み良くしてくれたが、娯楽に飢えてた様だ……


「次に、名乗りを挙げたのは、意外にも隠れて淡い恋心を抱く、ジル!」


「「「「「 おおおおお〜 」」」」」


ジルは畑や果樹園を仕切り、村に恵みをもたらせてくれた功労者だ。


「そして、姉の恋心に待ったをかけた、まだ幼い見た目のエルフ、マチリナ!」


「「「「「 おおおおお〜 」」」」」


おいおい、実年齢は知らんが見た目で犯罪じゃ無いか……


「そして大穴、品の無い性格に隠された、真っ直ぐな愛の持ち主、ドラミ!」


「「「「「 おおおおお〜 」」」」」


品が無いって言われてますが……


「次が本命か、異世界から招かれた勇者の中の勇者、銀髪の獣人、ベンゾウ!」


「「「「「 おおおおお〜 」」」」」


ローズ、お前…… どっかで司会の仕事でもやってたのか?


「そして最後、運命の出会いを果たした、漆黒の魔女、ど本命のスワロ!」


「「「「「 おおおおお〜 」」」」」


スワロも打ち解けて来たな〜 魔女と要らぬ恐れを持たれていたが……


「以上、6名による惣一郎様の正妻争奪戦の開催を、ここに宣言します!」


「「「「「 おおおおお〜 」」」」」


「なお、今回名乗りを挙げ無かった者も多く存在しておりますが、その者達は愛人でいいとの事! ほとんどの村の女性を代表して私からも宣言します! 惣一郎様、いつでもお声がけを!」


「「「「「 おおおおお〜 」」」」」


アホばっかなのか……








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