七話【精霊の謝罪】

「何を迷う人の児よ! 妾が居ればこの木も力が増すし、其方らの力になろうと申しておるのだぞ……」


「断る! その対価が問題だ」


「其方は森の児であろう…… 森の民は妾を崇拝しておったはずじゃが……」


「私はこの世に来たばかりだ、貴様など知らぬし、主人の精は私の物だ!」


あのな……


「ならば力尽くで……」


だが既に、スワロが青い炎槍を浮かし構えている。


惣一郎は何やら液体を持っていた。


「まっ待て、冗談じゃ! 木に住まう妾じゃ、火への対応は出来ておるが、貴様のそれは何じゃ! 凶々しい物を感じるぞ!」


「えっ、除草剤ですが? 原液の」


「何じゃそれは、毒か!」


するとツリーハウスが騒つく。


「なっ待て待て! 其方まで妾を追い出すと言うのか!」


そう叫びながら床に消えて行くドライアドリス。


すっかりツリーハウスも惣一郎の味方になった様だった……




「冗談とはいえ、すいませんでした……」


森のエルフに崇拝されているドライアドリスが、正座して頭を下げていた。


威厳も何も無い……


「だが見よ、この身体を、枯れ木の如く潤いを失った妾の姿を! 不憫に思わぬか?」


薪にしてやろうか……


すると急にドライアドリスが、窓の外、遠くを見つめ固まる。


「森の木々が騒いでおる、森の民が襲われている様じゃな」


精霊は、森の木々と離れていても意思疎通ができるのだろう。


「まさか、パイジンか!」


惣一郎とスワロはツリーハウスを出て、来た方角に急いで向かおうとする!


「これ! 家を忘れておるぞ!」


っと、木から上半身を出すドライアドリスが呼び止める。


「どうすればいいんだ?」


「触れるだけじゃ」


惣一郎は大木の根元に触れると見る見る小さくなり、薄っすらと光る十円玉ほどの種になる。


急ぐ惣一郎は、アイテムボックスに仕舞おうとするが入らないので、ローブのポケットに入れ、理喪棍でスワロと飛び立つ。


森の上空に出ると、遠くに土煙が見える!


勢いよく飛び向かう、惣一郎達。


近付くと木を薙ぎ倒し、前を走るダークエルフのふたりを追いかける、大きな厄災がいた。


ひとりはやはり、パイジンだった。


その前に降り立つ惣一郎。


「パイジン!」


「惣一郎さんか! 逃げろ!」


惣一郎はすぐさま、上空に無数の槍を浮かせる。


先を尖らせただけのタングステンの棒!


見た目には分からないが、高速で回転していた。


徐々に赤みを帯びていく槍!


向かって来る厄災は前にも見た、ジャイアントウェタ。


スワロが杖を構え集中すると、目の前に光る大きな盾が現れる!


杖を振り下ろすと、光る盾が厄災の顔に勢いよくぶつかり、一瞬その突進の勢いを殺すが、6本の脚で地面を蹴り、盾を少しづつ押し戻し始める!


離れているスワロも何かに押される様に、地面を後ろへと滑って行く!


そこへ惣一郎の槍が、一斉に降り注ぐ!


厄災に刺さる無数の槍は、深く突き刺さると徐々に回転を止め、厄災はゆっくりと一歩、また一歩出て力尽きる。


長い触覚が力無く、地面へと落ちる。


「凄いな、盾にもなるのか!」


「いや止めねばと、思っただけで……」


狙った訳じゃ無さそうだ。


「倒したのか…… 蟲を……」


驚き目を見開くパイジン。


隣にはまだ幼いダークエルフの少女が、同じ様に驚いていた……






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