十六話【嵐の前の…】

蟲の巣を目指し歩く惣一郎は、キッドからの情報をゴゴから聞いていた。


崖の中腹にある洞窟に住む蟲は、また蟻の類いと思っていた惣一郎だったが、針の付いた黒い飛ぶ蟲との事。


蟻に姿は似ているが、蜂の類いであった。


スズメバチでは無さそうなので、初陣としては物足りないかも知れない。


歩きながら蜂用の殺虫剤を購入する惣一郎だったが、武器を手にようやく活躍出来ると張り切る後ろのタイガ達に、少し様子を見てからでもいいかと思えた。




しばらく、鬱蒼と生茂る森の中を進んでいくと、それは突然現れた。


大きなコオロギの死体の上に立ち、羽を小刻みに振動させる黒い人形の蟲。


いきなり王かよ……


警戒しこちらを睨みつける、黒い大きな目。


ゴゴとジジが盾を構え、前に壁を作る!


ベンゾウが出ようとするのを手を広げ、止める惣一郎。


猫背の王が腰から生えた腕で死体を持ち上げると、自分の何倍も大きなコオロギの死体を軽々と持ち上げ、飛び去って行く。


襲って来ない?


方角的に、巣に持ち帰ったのだろう。


重いのか、地上から軽く浮く程度の高さで、木々の間をスイスイと縫う様に消えて行く。


「旦那、いきなり上位種が出たぞ……」


棍を構えたままのタイガの声は、驚きを隠せずにいた。


すぐにサーチを飛ばす惣一郎。


蟲は、あっという間にサーチの範囲外まで飛び去って行く。


「主人よ……」


「ああ、追うぞ」


惣一郎達は、蟲が飛び去った方角へと森を進んで行く。


みんなの顔色も真剣な物になっていた。





陽が落ち始めた頃、今日はこの辺りで休もうと種を出す惣一郎に、ジジが、


「惣一郎様、訓練の為にも野営しましょう」


っと野宿を提案してくる。


確かにそう言った訓練も必要なのかと、提案を受け入れる惣一郎。


テキパキと火を起こし、見張りと寝床の準備に別れる騎士達。


移動中に捕まえた鹿の様な物で、ハクが食事の準備を始める。


捕らえて直ぐ血抜きされた鹿を、例のナイフで見事に切り分けていくハク。


惣一郎達は黙ってその手際を眺めていた。





香草と一緒に焼かれた肉は、硬いがワイルドな味わいで、惣一郎にとっては力のみなぎる夕食となった。


「お気に召しましたか?」


「ああ、顎が疲れるが、美味い!」


ベンゾウも夢中で齧り付いていた。


「見張は我々が致しますので、食べたら先にお休み下さい」


細い目で肉を切り分ける、ハク。


焚き火の灯りが照らす白髪の女性は、美しくも逞しく映る。


ドラゴンがかき集めた柔らかい葉の上に、固い麻布を敷き、寝床が作られると惣一郎達はその上に横になる。


離れて同じ物が3つ。


夜が更け、パチパチと焚き火の音だけが静かな森に響いていた。


最初の見張は、ゴゴとジジ。


惣一郎も寝ながら、サーチで辺りを警戒していた。


昼間見た上位種に、すでにここは蟲のテリトリーと知っての事でもあったが、静かな森に違和感もあり、両脇で抱き付き寝息を立てるふたりと違い、中々寝付けない惣一郎だった。





明け方、ウトウトしだす惣一郎に、見張のドラゴンが「旦那様、森の様子が」っと、声をかけて来る。


すぐに起きる惣一郎が目にしたのは、霧がかかり視界の悪くなった森であった。


「霧がどうかしたか?」


「いえ、霧の中に何か……」






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