十六話【ニアミス】
「なんや、ええの持っとるな〜 あないな魔力を無駄にせず…… ええ仕事するわ〜 その杖」
「呪羅流民の事か?」
スワロが杖をドラミに見せながら答える。
その杖をドラミが食い入る様に見ると惣一郎が、
「ドラミのそのスキルには必要無いだろ?」
「せや、呼び笛はな。でも木を操るのは魔力やで、ウチもコレ欲しいわ〜」
「ああ、後で作っておくよ」
喜ぶドラミを他所に、惣一郎は厄災の死骸から魔石を取ろうと近付く。
だが真っ黒に焦げた空洞に、魔石は見当たらなかった。
「すまん主人よ、焼き過ぎた様だ」
「みたいだな…… しかし凄い火力だ」
嬉しそうなスワロ。
惣一郎が死骸を収納すると「このまま街に向かうおう」っと歩き始める。
少し歩くとドラミが胸に手を当て、足を止める。
「惣一郎…… なんや胸がザワついて落ち着かんのや」
ラミエルの記憶が街を拒んでいるのだろうか?
「ユグポンの中に居るか? 無理する事は無いぞ」
「せやな、そうさせてもらうわ……」
惣一郎はポケットから種を取り出し地面に置こうとすると、ドラミがその手を掴む。
「なんや来るで!」
惣一郎の背後、街の方角に視線を飛ばすドラミ。
振り返る惣一郎が首に立て掛けた理喪棍を掴みサーチを飛ばす。
「蟲だ。蟲に乗った人が4人向かって来る」
まだ距離はある!
惣一郎はドラミとスワロに森に隠れる様に手で合図するが、ドラミが顔を横に振る。
「街の偵察隊や。バレとる!」
蟲が近付いた事で警戒した街が偵察隊を送ったのだろう。
この距離なら向こうもサーチで惣一郎達に気付いているだろうと。
すると蟲に薙ぎ倒された木々の中から、小型のダンゴムシに乗った男が現れる。
ドレッドヘアーを後ろに縛り、体格の良い男は突き出した下顎から牙を覗かせる。
オークの様だが牙以外は人であった。
「こりゃ驚いた!」
後からすぐ、他の3人も姿を現し警戒する。
皆、同じ様な髪型に牙であった。
「お前…… ラミエルなのか?」
水色の髪を結い、腕を組むドラミに戸惑っているのだろう。
顔は同じでも雰囲気が違い過ぎる。
先手を討つ惣一郎。
「俺は、蟲を倒し旅をしている惣一郎と言う。ふたりは仲間のスワロとドラミだ」
慌てて被ったフードを取り、顔を見せるスワロに更に驚く男達。
「まさか…… 魔女…… では勇者か!」
もう噂が広まっている様だ……
「ああ、だが目立ちたくは無い」
「蟲がいたはずなんだが、それも?」
惣一郎は倒した厄災の死骸を横に出す。
急に現れた大型の蟲に暴れ出すダンゴムシ。
驚きながらもなだめ、蟲から降りる男達が武器を仕舞う。
「我々はトリグルから来た傭兵団[赤い牙]の[ゴゴ]。街に近付く蟲の偵察に来たのだが、まさか勇者様にお会いできるとは……」
大型の蟲の死骸の効果は絶大であった。
「白装束のふたりと聞いていたが…… しかし良く似ている」
ゴゴの視線がドラミから離れない。
「知り合いか?」
「ああ……」
「ゴゴよ、彼女がラミエルならとっくに蟲に囲まれてる。別人だろう」
後ろの男がゴゴに話しかける。
「それもそうなのだが……」
だが昨日の今日で現れた同じ顔の女。
簡単にゴゴの不安は消えなかった。
すると前に出る男が、
「私は[ジジ]と申します。勇者様はトリグルへ向かわれておられるのか?」
惚けた惣一郎は蟲を追って来ただけと答える。
「そうでしたか…… いや、街の危機を救って下さり感謝します! こんな大型の蟲に襲われたら壁が保たなかった」
「あっああ、その通りだ! 感謝します」
思い出した様に慌てて礼を言うゴゴ。
報告に街に戻るので、案内すると言う申し出を丁寧に断る惣一郎。
役目のある勇者にこれ以上無理は言えないと、男達は頭を下げて街へと帰っていった。
大騒ぎにならずに済んだ惣一郎は、ホッとため息を吐き今日は街を諦め、種を地面に置く。
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