四話【噂】
翌日、朝食を終えた惣一郎は落ち着かない視線の中、訓練場でゴゴとジジ、ジャニーの3人を相手に戦闘訓練をしていた。
惣一郎は盾を構え迫るゴゴを幻腕で殴りつけると、滑る様に後ろに下がらせる。
「「 キャ〜♡ 」」
ゴゴの影から入れ替わる様に前に出るジャニーの両手剣[大太刀長房]が、弧を描きながら襲い掛かる。
振り下ろされ、青白く光る刀身は太く重く長い。
馬を斬る為に作られた刀。
筋肉質だが細身のジャニーが、それを起用に振り回す。
握りを扱いやすい様ドワーフに直してもらい、刀身の重さを利用し、細い腕で見事に振り下ろされる刀は、虚しくも惣一郎に躱され空を斬る。
「「 ああ〜ん、凄ぉいぃ〜♡ 」」
集中出来ない……
黄色い声は、観戦する村の女達であった。
ひとりを選ばないなら、私にもチャンスがあると急にモテ始めた惣一郎。
分かりやすくアピールしだす、村の女性。
「ストップ! ここまでにしよう」
惣一郎が止めると、肩で息をしだすジャニー。
手が痺れ盾を手放すゴゴ。
同じ強化アクリルの盾に、無骨な鈍器を持つジジが「お見事!」っと、構えを解く。
「素早さが以前と段違いですね、全て見切られている様です」
「ああ、しかもその左手の打撃は、この盾じゃなきゃ、受け切れんぞ!」
ベンゾウとの契約で惣一郎にも、相手の動きが手に取るようにわかる様になっていた。
「以前ならジャニーに素早さで負けてたんだが、今は視線を読んで楽に動けるよ」
荒い息で、落ち込むジャニー。
そこにババが現れ、
「お忙しい所申し訳ないのですが、少しお話しをよろしいでしょうか」
ババに先を越された女達から漏れる声に、いけない事をしたのかと、不安になるババ。
「ああ、どうだ? 村には慣れたか?」
「はっ、はい、誠に素晴らしい村で、子供達も喜んでおります」
「足らない物があれば、遠慮なく言ってくれ。それで、話とは?」
「はい…… 実はその……」
言いづらそうなババに、惣一郎は場所を変えようと、名残惜しむ声の中、畑の方へと歩きだす。
いつも一緒にいるベンゾウとスワロがいないからか、女達も遠慮がない。
そのベンゾウとスワロだが、昨夜からくっついてウザいので、ミネアと街に買い物に行かせた。
住民も増えたし、惣一郎では気付けない物もあるそうなので、ミネア発案の買物に護衛として押し付けたのである。
女性は色々大変なのだそうだ……
ジル達が働くのを眺めながら、畑の横に休憩所として作られた、屋根だけがあるテーブルで、お茶を出し座る様に差し出す惣一郎。
「勇者様…… その魔女についてなのですが」
「スワロか?」
「いえ、あの方が魔女でないのは分かります。我々の村には、魔女の伝承が色濃く残っておりましたので」
本物の魔女の方か……
魔女の話は嫌がられるからな〜 話しづらかったのだろう。
「この森の何処かに、魔女と共に戦った褐色のエルフが未だ生きていると言う噂がありまして、その姿を見た者はいないのですが、なぜか何代にも渡り、噂だけが今もなお、不思議と受け継がれているのです」
「生きてる? 精霊より長生きなんだな〜」
「はい、そんな森に勇者様がお越しなったので、一応お話ししておこうかと思いまして」
「なるほど……」
「勇者様、魔女の事はどこまで?」
「ああ、昔話を聞いた程度だ。森に捨てられ世界を呪ったって言う……」
「はい…… その呪いにより蟲が生まれ、今も呪いは生き続けています」
「その呪いの元を断たねば意味が無い。そう言う話か?」
「左様です…… 今も生き続けるそのエルフに会えば、何か分かるかも知れません。探してみてはいかがでしょうか?」
「噂なんだろ?」
「はい、根も葉もない噂に御座います」
その噂話を信じ、探せと言う老婆には何かエルフが生きていると信じれる確証でもあるのだろうか?
考え込む惣一郎。
その惣一郎を真っ直ぐ見る老婆。
シワが深い……
「もし探すなら、ババなら何処を探す?」
「西の森に深く、太古の遺跡が眠る場所があるそうです」
「それも噂か?」
「ええ、噂に御座います」
静かにお茶を飲む老婆……
ただの老婆じゃない様だ。
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