八話【失踪】

2枚の円盤を従え、血に染まる戦鎚を肩に担ぐホルスタインが、惣一郎に追い付く。


「旦那様、私の出番がこの円盤に、ほとんど取られるのですが!」


「あはは、便利だろ!」


惣一郎を旦那様と呼ぶホルスタインは、大きさといい、弁慶を思わせる。


筋肉質では無いが、胸の大きさは弁慶より上だ。


それよりも気になる王の首輪。


魔獣が作った物には見えなかった。


「ご主人様、スワロがサボってる見たいだから、行って来るね!」


確かにまだ、ライノルフが中央に残っている……


「ああ……」


返事も待たず、閃光が残像を残す。


「なぁ、ホルスタイン。これなんだと思う?」


「コレって…… 魔導具の隷属の首輪に似てますね…… 契約と違い簡易で縛れるそうですが、効果も一時的になると聞きます」


操られていたって事か?


首輪を拾い、王を収納する惣一郎が、ベンゾウの後を追いかけ、歩きだす。




外壁の近くまで戻る惣一郎。


立っているライノルフはもういなかった。


そしてギネアも……


「おい! どうしたギネア! やられたのか!」


傍らに立つベンゾウが、


「ご主人様…… スワロがいない」


っと呟く。


頭が回らない。


ホルスタインがギネアを起こし、怪我の具合を確かめる。


「気を失ってる様です!」


「ベンゾウ来た時にはこの人、倒れてたよ」


「何があったんだ……」


外壁を見上げる惣一郎。


見下ろす町の傭兵達も、疲労を浮かべ何かあったのかと、不思議そうな顔を向ける。


サーチ!


…………… クソっ、こんな時に!


大型の蟲が向かって来る。


スワロは何処だ!


外壁に登り、周りを見渡すベンゾウ。


惣一郎も上空高く飛び、サーチの範囲を広げる!


何処だスワロ……


すると外壁の上の男が森を指差し、大声を上げる!


「蟲だ! 蟲が来るぞ!」


「旦那!」


遅れて戻って来たタイガも、蟲が来ることを指を刺し、伝える。


正直それどころじゃ無い。


ここで惣一郎は、キッドもいない事に気付く。


何があった……


王の首輪を握りしめる。




森の中を木を薙ぎ倒し、迫る大きな白とピンクのカマキリ。


腹部が広がり花びらの様な形で擬態する、惣一郎でも知るカマキリだが、デカい!


擬態する意味など無い、巨大なハナカマキリは、10mをゆうに越す大きさで、惣一郎達が倒したライノルフを地面からハサミで掬い上げると、抱え込む様に食べ始める。


滴る血で赤く染まるハサミで次から次へと、凄い勢いで食べていく。


その大きさと食欲に、言葉を失う惣一郎達。


バキバキと噛み砕く音だけが、森に響いていた。








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