二十話【急がば回れ】

お茶を飲み、落ち着きを取り戻す惣一郎がミネアに話し始める。


「ミネア、実は俺達はこの世界の者じゃ無いんだ……」


あっさりと打ち明ける惣一郎。


ミネアも最初は理解出来なかったが、徐々に惣一郎達の異常な強さや、収納スキルから出す見た事も食べた事もない食事などで信じ始める。


「……っと、言う訳でな、俺達はまだこの世界に来たばかりで良く分からない事が多いんんだ。だから正直ミネアには、今後色々と教わる事も多い」


「そう言う事だミネアよ。主人はミネアの持つ、この世界の常識を求めている。だから決して拒んだ訳では無い。焦らずとも良いのだ」


「では、その蟲を倒す旅になるのですか?」


「ああ、因みにミネア達の街を襲った蟲も、本当は倒してあるんだ」


「あの大きな蟲を?!」


「ああ、危険な旅かも知れないが、この中は安全だし、俺に何かあってもドリーが種から出られるから問題は無いぞ!」


いつの間にか一緒にお茶を飲む、ドリーに視線が集まる。


「……… 分かりました。私でお役に立てるのであれば、何でも仰ってください。幼い妹達を安全なここに住まわせて頂けるのであれば、何でも致します」


陣職人で生計を立てていたミネアだが、街に住むのもタダでは無かったそうで、7人分の税の様な物を納めると生活は厳しい物だったそうだ。


それは他の街に移り住んでも変わらない。


街はそうやって集めた金で、蟲から守る壁や傭兵を維持していくのだと言う。


世界が呼んだ、蟲を倒せるふたりといるのなら、街に住むよりは安全だと、ミネアの決断も早かった。




ホッとした表情で頭を下げ、部屋に戻って行くミネア。


話を聞いていた枯れ木の貴婦人が、


「なるほどの〜 あの巨大な蟲も容易く倒す其方らが、何者なのかがやっと分かったわぃ」


「ああ、だからドリー、今度はもっと早く教えてくれよな!」


「森の民ならいざ知らず、エルフの住まう街が襲われようと、妾は気にもせんが…… 良かろう」


「主人よ、予定通り町を目指すのだろう? まぁ、ミネア達を送る予定だったが、先に出た街の人達もこんな事になってしまったし…… 情報もミネアから聞くのが早そうだが」


「そうね〜 急ぐ必要は無くなったかな〜」


「ならば惣一郎よ! 遠く西で、また蟲が騒いでおる。凄い数の蟲が森を喰らい、その蟲を目当てに大きな蟲を呼んでおる。近くには集落もあるのじゃが」


「遠くって、どのぐらいよドリー」


「そうじゃの〜 其方なら10日はかからんじゃろう」


遠いな……


朝になったらミネアに聞いてみよう。ザイサイから転移屋で飛べるかも知れないし。






朝、スワロとみんなの朝食を作っていると、顔を赤くしたミネアが手伝いに現れる。


昨夜の自分が後から恥ずかしくなったのだろう。


「お、おはようございます」


「おはよ、ミネア」


朝食は鯵の干物を焼いた物と納豆、ご飯に味噌汁と、シンプルな和食だ。


幼い子には、ふりかけと味のりも用意してある。


朝食を摂りながら惣一郎がミネアに昨夜の事を聞く。


「なぁ、西にある街ってザイサイから行けるのか?」


「西ですか? 西…… [トイプチ]の事かしら…… ですが、トイプチまでは早馬でも1ヶ月以上かかる距離ですよ?」


「ああ、多分それだ」


「ザイサイからですと2カ所[ゴズの町]と[ケイテープ]と言う集落しか行けないですが、ゴズまで行けば、もしかしたら……」


飛ぶよりは早いかな?


「じゃ、取り敢えずゴズまで行くか」


こうして惣一郎達はトイプチに向かう為、予定通りザイサイへと向かう事になった。







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